02/06/25
■ 結核菌の分子疫学調査でRFLPが多用される理由は???
【質問】
 いつも教えていただき本当にありがとうございます。
ところで質問ですが, MRSAなどはPFGEで全DNAを対象に分子疫学調査をしますが, なぜ結核菌のみはRFLPで分子疫学調査をするのでしょうか? MRSAの一部の遺伝子をPCRでとってきて, その解析をして分子疫学調査をしようという報告は, 感染症学会や環境感染症学会で毎回一個は演題としてでてきますが, 会場から“変わりすぎるので疫学調査に使いにくい”というコメントがよくでてきます。それでこういう質問をさせてもらいました。

【回答】
 結核の集団発生や散発的発生に際し, その相互関係を明らかにさせるための手法として, 薬剤耐性パタ−ンやファ−ジ・タイピングなどが従来は用いられてきました。しかし, 今日ではご質問のような遺伝学的手法によるアプロ−チが分子疫学的調査に応用されることが多くなっています。
 ご質問のように, MRSA をはじめ多くの病原微生物では, 全DNAを対象とするPFGE 解析が主流です。
 しかし結核菌では事情が少し異なるのです。つまり (1) 結核菌は独特の細胞壁構造のために手技が煩雑となること, また(2) 再現性に乏しいことに加えて, (3) PFGE で得られるパタ−ンの数が少ないのです。以上の3点から, 結核菌の分子疫学解析には PFGE はほとんど用いられていないのです。
 そこで結核菌の遺伝子型別分類に際しては, その遺伝子中に挿入されている特異的な塩基配列であるIS6110 のRFLP 分析が疫学調査の有効な手法として世界中で利用されて来ています。IS6110 のRFLP 分析とは, 結核菌群がもつIS6110 のコピ−数と制限酵素「Pvu II」による切断部位の多様性を活用した遺伝子型分類法です。
 IS6110 は例えば, M. tuberculosis では0〜6コピ−が, M. bovis には1〜6コピ−が含まれています。この IS6110 は染色体上にランダムに挿入されており, しかもその位置は菌株によって好都合にも異なるのです。
 なお本件に関する詳細は, 下記論文中に詳しいのでご参照ください。

Hermans, P. W. M., van Soolingen, D., Dale, J. W., Achuitema, A. R. J., McAdam, R. A., Catty, D., and van Embden, J. D.: Insertion element IS986 from Mycobacterium tuberculosis:  a useful tool for diagnosis and epidemiology of tuberculosis. J. Clin. Microbiol. 28 (9): 2051〜2058, 1990.

(信州大学・川上 由行)

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