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【質問】
嫌気培養にて緑膿菌が生えてきます。インジケータは嫌気状態を示しております。教科書的には,
緑膿菌は“偏性好気”となっており, 血液培養で検出された場合の病原性 (敗血症はなく,
菌血症) にも関係すると書いている文献もありました。緑膿菌の酸素要求性について初歩的な質問で申し訳ありませんが,
ご教授のほどお願い致します。
【回答】
好気性菌が嫌気環境で発育可能な理由には二つ考えられます。
1. 菌側の因子
Pseudomonas 属は好気性菌に分類されます。好気性菌は増殖にO2を必要とする菌種であり,
これらの菌種はATP (アデノシン- 5 - 3 燐酸) の獲得を酸素呼吸に依存する菌種群です。しかし好気性菌群には酸素呼吸以外に硝酸呼吸
(嫌気条件下で酸素に代わる終末電子受容体 NO3) が存在し酸素呼吸とは異なる呼吸鎖を形成し,
嫌気的呼吸が可能になります。この呼吸機能をもつ菌を脱窒素菌とも呼ばれています。脱窒素菌は酸素呼吸と同様に脱窒素反応を使って有機化合物を完全にCO2に酸化します。しかしこの呼吸機能を備えている菌でも最初は酸素呼吸を行うのが普通です。
また脱窒素反応によるATPの獲得エネルギーは酸素呼吸による獲得より少なく,
このため嫌気環境での緑膿菌の発育が乏しい理由の一つでもあります。同様に血液培養ボトルの好気性ボトル
(BBL/Aerobic F: CO2 2.5%, O2 97%)で緑膿菌が嫌気ボトル(BBL/Anaerobic F:
CO2 5%, N2 95%)より良好に発育する理由はボトル内のガス環境も重要な発育因子であります。
Pseudomonas 属でも硝酸呼吸機能をもたないP.
putida は嫌気条件下では発育できません。
2. 培養環境の因子
通常, 臨床検査で用いられる嫌気性環境を保障する方法はガス発生袋
(Gas Pak /H2+CO2, Anaero Pack/CO2) 嫌気性グローブボックス (N2 80%, CO2
10%, H2 5〜10%) を用いる方法があります。嫌気環境と一般的に呼ばれる環境ですが,
培養操作や培地の出し入れ, 発生袋投入から指定環境になるまでの時間など少なからず酸素に接触する時間があります。ガス発生袋は酸素濃度0.1%以下,
グローブボックスは不明ですが, このような酸素と, また使用培地中に溶け込んだ酸素など,
少量の酸素も菌発育に影響すると考えます。
・血液培養で検出された場合の病原性について
緑膿菌は湿度のあるあらゆる環境を好んで生息し,
自然界では水, 土壌, 植物, 果物, 野菜などから検出されます。緑膿菌による感染症数や死亡率はPseudomonas
属で最も重要なヒト感染症細菌であり, 感染症は皮膚表面感染症から劇症な敗血症まで及びます。健常者や免疫低下を認めない患者群では通常,
局所感染症に限定されますが, 免疫低下患者や火傷などの外傷感染症後に発生する敗血症は死亡率の高い原因菌種でもあります。CD4
が<50/μl のエイズ患者では軟部組織感染症, 中耳炎, IVH からの敗血症など緑膿菌感染症が頻回に発症するとされています。これらのことから,
ご質問にあります“緑膿菌の敗血症はない, 菌血症である”は誤りと考えます。
最後に細菌の呼吸, 代謝については以下の文献を参考にすると良いと思います。
善養寺 浩: 細菌の代謝. 近代出版 1980 東京
(琉球大学・仲宗根 勇)
【質問者からのお礼】
緑膿菌の酸素要求性の質問にご回答頂きありがとうございました。ご教授頂いた内容を日常業務に活かして行きたいと思います。
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