03/03/28
■ 感染手術で使用した器械の洗浄に酸性水は如何???
【質問】
病院に勤めている看護婦です。オペ室勤務もしています。手術で使用した感染症の患者さんの器械の洗浄にはステリハイドを使用していますが, 弱酸性水を使用してはどうかと言う案がでています。内視鏡や手指の消毒のデーターはあるのですが, 実際に施行していいのかわかりません。回答をお願いします。

【回答】
感染症患者の器具の洗浄とのことですが, 肝炎患者をはじめ, ウイルス感染症に対しては塩素系消毒薬を使用することがあると思います。ご指摘の弱酸性水は, pH5〜6で, 有効塩素量50 mg/l程度の物性値を示す弱酸性電解水であると思います。従来は, 次亜塩素酸ナトリウム製剤であるミルトンィやピューラックスィを弱アルカリ領域で100 mg/l以上の高濃度で使用していました。pHを酸性領域にすることによって, 次亜塩素酸が主体となり殺菌活性が高まります。それに伴い, 必要とする有効塩素量が少なくなります。pHが2.5以下になりますと遊離する塩素が多くなり, 塩素臭とともに殺菌効果も低下しますので, 注意が必要ですが, 弱酸性電解水のpH領域では塩素ガスの放出はありませんので, 有効塩素量が低下しない限り, 安定した殺菌効果を呈するといえます。しかし, 殺菌機構は次亜塩素酸の酸化作用であり, 非特異的に作用しますので, さびやすい金属であると腐食しやすいので注意が必要になります。

[参考文献]
・余明順他: 食塩水電気分解産物による流水式医療用小器具消毒法の検討. 環境感染 11: 114〜116, 1996.

・北浦英樹他: 矯正用器具に対する強酸性電解水滅菌の有用性の検討−強酸性電解水とオートクレーブとの比較−. 西日矯歯誌 42: 108〜116, 1998.

酸性電解水を小器具に使用した文献はこの2報がありますので, 参考にしてください。
これに対して, サイデックスはグルタールが主成分です。アルキル化剤でチオール基, アミノ基と反応し, 蛋白・DNA合成阻害によって殺菌します。細胞外層と結合し, 溶菌しにくくなり, 細菌の外側を密閉することにより死滅に導くとされています。

この両者を電子顕微鏡で菌を観察してみると違いが明確になります。グルタールは固定剤として使用しますので菌をそのまま観察できます。つまり, 菌は死滅していますが, 菌の形態・構造に変化が見られません。これに対して酸化剤は, 細菌細胞壁の剥離, 細胞質成分が溶出している像が観察されます。このように菌を殺菌する機構がまったく異なりますので, 簡単にグルタールから酸化剤に変更することは勧められません。グルタールを長時間作用させると化学滅菌剤となり, 短時間では高度消毒薬として使用されています。消毒対象物を確実に処理するのであればグルタールを使用すべきです。これに対して, 生体に対する安全性はグルタールより電解水のほうが高いことがわかっています。

消毒対象物がどのようなもので, 洗浄でいいのか, 消毒か, 滅菌か, さらに作業者の安全性を加味したリスクとベネフィトをよく考えて, 貴施設にあった適正な使用方法を確立してください。

(昭和大学・中村 良子)

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