■ 菌株の冷凍保存について | |
【質問】
私は, 名古屋にあるコンタクトレンズケア用品およびコンタクトレンズの製造販売をする会社の品質管理課で勤務しています。現在, 微生物試験のための指標菌の購入を検討しています。私自身, 以前の会社で微生物を扱うことがあり, 微生物の培養や長期保管の経験が若干あるのですが, 一から設備を整えるのは初めてのことなので, 初歩的なことなのですが質問を寄せたいと思い, 投稿させていただきます。 微生物の長期保存についてですが, 以前は−80度で保管を行っていたのですが, 当社には現在?20度のフリーザーしかありません。−80度と−20度保存における差はどのようにあるのでしょうか (−20度で長期保存は可能なのでしょうか)。購入予定の指標菌は大腸菌, 緑膿菌, 黄色ブドウ球菌, 酵母などです。何卒, 御回答のほどよろしくお願いいたします。 【回答】
微生物の保存方法にはいくつかの方法がありますが, 適応可能な微生物と適応できない微生物があります。保存法の前に微生物の保存に関しての注意点を述べます。 微生物の長期保存での注意点。 1. 死滅させないこと
(1) 継代培養保存法 微生物を寒天培地または液体培地に培養し, 定期的に植え継いで保存する方法。最も基本的な保存方法ですが, 生存期間が短く, 最大の欠点は微生物の免疫力や生理学的性質の安定性が悪いことです。発育した微生物は自己の老廃物に常に曝されるので, 菌の変異, 退化の危険があります。保存温度は2〜10℃の低温で保存します。低温で死滅する菌種については室温で保存します。 (2) 代謝速度を低下させた保存方法 (2)-1軟寒天法 高層の軟寒天培地に穿刺し18時間培養後, スクリューキャップなどで密栓します。保存温度は5〜20℃で保存します。腸内細菌, Pseudomonas ,ブドウ球菌, Bacillus など, 乾燥を防げば1〜10数年は保存可能です。注意点は寒天培地の栄養素をできるだけ抑えることです。 (2)-2 流動パラフィン重層法 寒天斜面または高層培地に穿刺後18時間培養します。その後, 滅菌流動パラフィンを重層します。流動パラフィンは培地の乾燥を防ぎ, 酸素供給を抑えて代謝速度を低下させます。保存は低温または室温で保存します。保存期間は1〜10年は保存可能ですが, Salmonella は死滅しやすいので, 6ヶ月ごとに植え継ぐ必要があります。Candida 属は2年ごとに植え継いで全株維持できます。 以上の培地発育菌を用いた保存方法で注意することは, 発酵性の炭水化物を含む培地や選択培地を使用しないことです。 (2)-3 有機栄養分を含まない水相懸濁液の保存方法 有機栄養分を含まない水相中に微生物を懸濁して保存する方法です。随時, 保存懸濁液から移植して実験に用いることが利点です。 蒸留水: 培養後の糸状菌やCandida 属を濃厚に懸濁し, 密栓して室温に保存します。1〜5年は保存可能です。 生食水: 寒天培地などで培養した微生物を濃厚に懸濁して, 密栓保存する。腸内細菌やPseudomonas, ブドウ球菌など1年は保存可能です。室温保存。 (3) 凍結保存法 寒天培地などで培養した微生物を適当な分散剤に懸濁し, 密栓して−20℃または−80℃のディープフリーザーで凍結保存する。分散剤としては10%スキムミルクや10〜15%グリセリン溶液があります。今回の保存目的菌種はいずれの分散剤でも1〜3年は保存可能です。凍結乾燥保存法は最も確実な方法で, 最大の利点は生存力の維持と微生物の免疫力, 生理学的性質が維持されることにあります。 (4) 乾燥による保存方法 乾燥による保存方法は乾燥方法によって大きく2つに分けることができます。昇華による乾燥は凍結乾燥法があります。凍結乾燥法は機器が必要なのでここでは述べません。蒸発による乾燥では代表的な方法としてゼラチンディスク法があります。 ゼラチンディスク法: A液, B液を等量混合し (1 ml ), 121℃で15分滅菌する。(混合液は密栓保存可能です)。使用時に加温溶解し, 40℃に保温し, C液を0.1 ml加える。C液添加溶液に寒天培地で培養した微生物を濃厚に懸濁する。硬パラフィンに浸した濾紙を準備し, 懸濁液を滴下する。乾燥剤を入れたデシケーターに入れ減圧して, 低温室で4_5日乾燥させる。乾燥後, 濾紙からディスクをはがし, 乾燥剤を入れた試験管で密栓保存する。保存温度は0〜5℃でブドウ球菌1年, 腸内細菌5年は保存可能です。 A液: ペプトン2 g, 肉エキス1 g, NaCl 1 g を蒸留水100 mlに溶解する。
(琉球大学・仲宗根 勇)
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