03/12/26
04/01/05
■ この細菌は何ですか?!
【質問】
 グラム染色で陰性桿菌 (球状のものも見られた)。また“round ends”で, 丸身を帯びていた。オキシダーゼは陰性。カタラーゼは陽性。TSA寒天培地では黄白色コロニーで, コロニーは大きく, ねっとりしていた。TSI寒天培地ではA/A, ガス産生, 硫化水素は産生せず。SIM培地で運動性はマイナス。IPAマイナス。インドールもマイナスでした。SC培地では陽性になりました。腸内細菌科だと言うことは分かったのですが, 何が考えられるでしょうか??? 教えてください。

【回答】
 限られた性状ですので推定の域をでませんが, 腸内細菌と仮定してまずキーとなる性状から考えてみましよう。

 シモンズクエン酸培地で発育し, IPA反応陰性を示す腸内細菌科はButtiauxella sp, Cedecea sp, Citrobacter sp, Enterobacter sp, Serratia sp, Ewingella sp, Klebsiella sp, Kluyvera sp, Leminorella sp, Pragia sp, Xenorhabdus spの菌種があります。次にラクトースの結果を上の菌種に当てはめまと, Buttiauxella sp, Cedecea sp (陽性率は低い), Citrobacter sp, Enterobacter sp, Serratia sp (臨床材料から分離される多くの菌種では陰性), Ewingella sp, Klebsiella sp, Kluyvera spが残ります。次にインドール陰性を当てはめます。Buttiauxella sp, Cedecea sp, Enterobacter sp, Ewingella sp, Klebsiella spになります。次に運動性が陰性 (運動性の有無は菌株によって異なりますので, 一部の菌種を除いてキーとなる性状とはなりません) を当てはめますとKlebsiella sp (あるいはEnterobacer aerogenesで運動性が陰性の株) が残ります。

 臨床材料から頻回に検出されるKlebsiella pneumoniaeE. aerogenes)の集落性状は大きくてムコイド状ですので, ご質問の形態に近いと思われます。またK. pneumoniaeに限らずムコイド集落の直接染色では球状 (round ends) に観察されます。しかし細菌の形態は培地の種類や培養時間でも異なりますので注意する必要があります。菌株を糖を含む培地 (BTB, CLEDなど) の培地で48時間培養してみてください。血液寒天培地に比べてムコイドのコロニーの観察が容易になります。腸内細菌の菌種同定方法には多くの異なった方法があります。 試験管培地を用いる方法でも, どの性状試験を用いるべきかといった標準的な方法はありませんが, ご質問に記載されている性状だけでは限界がありまので, リジン, オルニチン脱炭酸試験, VP試験を追加することで, 病原性のある腸内細菌は容易に同定できます。

 また薬剤感受性の結果も役立ちます。K. pneumoniaeはAmpicillin, Carbenicllinに耐性を示します。E. aerogenesはCephalothinに耐性を示します。菌種の薬剤感受性パターンと同定菌種名が相反する場合はいずれかの試験結果が誤りと考えられますので, 再試験する必要があります。

(琉球大学・仲宗根 勇)
【質問者からの回答】
 あの後, VP試験とオルニチン脱炭酸試験を行ったところ, VP陽性, オルニチン陰性でした。このことからK. pneumoniaeと判断できました。いろいろ詳しく教えていただきありがとうございました。

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