■ 口腔内細菌培養のための培地組成について | |
【質問】
こんにちは。現在学生で, 微生物学の実習をしています。 唾液中から摂取した口腔内細菌についてふたつ質問です: (1) MS培地に含まれる色素 (トリパンブルー, クリスタルバイオレット) の役割は何か??? MS培地で何を培養しようとしているのか??? (2) Bacitracinとは何か??? どのような目的でMSB培地に添加するのか??? MSB培地で何を培養しようとしているのか??? について図書やインターネットで調べたのですが詳細な情報が得られません。ぜひ教えてください。お願いします。 【回答】
各種の色素 (ブリイアントグリン, マラカイトグリン, クリスタルバイオレットなど) は, ある濃度では大腸菌に阻害的に作用し, サルモネラには作用しないので選択培地に利用されています。また質問のクリスタルバイオレットは大腸菌の他にブドウ球菌にも阻害的に作用しますが, 連鎖球菌には作用しないため, 各種の細菌が混在する試料から連鎖球菌を選択的に分離するために添加されています。 トリパンブルー MS培地に添加されているトリパンブルーの目的はStreptococcus以外の菌種(Enteroccus: 光沢のある青, E. coli: 茶色, 光沢のある集落はS. mitis, S. salivarius 以外の菌種) の鑑別を容易にする目的と思われます。また主な分離目的の菌種であるStreptococcus属は培地中に大量 (50 g) に含まれる白糖からの多糖 (グルカン, フルクタン) 産生による集落色調の濃淡, 集落粘性, 培地への付着性などで集落を鑑別する目的もあります。S. mitisは微小な青い集落をつくり, S. salivariusは青いスムーズな集落を, S. mutansは青い付着性の強い集落を, S. sanguis は集落の辺縁が波動状で微小な集落をつくり, スリガラス状です。このように集落形態からある程度菌種の推定が可能ですが, 最終的には複数種類の生化学性状の確認が必要となります。 Bacitracin とは何か Bacitracin はBacillus subtilis より分離された抗生物質です。グラム陽性菌, グラム陰性菌, ナイセリア属に強い抗菌力を示し, 殺菌的に作用します。Bacitracinは腸管吸収が悪く, 血中にも移行しないといった理由から臨床で使用されることは稀です。 臨床細菌検査ではA群連鎖球菌 (Bacitracin 感性) と他のβ-溶血連鎖球菌の鑑別スクリーニング試験として0.47 μg含有の市販ディスクが使用されています。 またMSB培地とは, 質問内容から推察してMitis Salivarius 培地にBacitracinを添加した培地だと思いますので, 以下の目的ではないでしょうか。 Bacitracinはグラム陽性菌, グラム陰性菌, ナイセリア属に抗菌力が強いので培地に添加して培地選択剤として用いられます。この場合には添加するBacitracin濃度で培地に発育可能な菌種は異なりますので濃度が非常に重要となります。通常23 μg/mlでは97%のA群連鎖球菌の増殖を阻害しますが, 他のβあるいはα連鎖球菌の発育は阻害しません。また唾液中の他のNeisseriaなどの発育も阻害するのでS. mitis, S. salivariusを選択的に釣菌することが可能と思います。我々は呼吸器材料からのHaemophilus 属の選択剤としてBacitracin 800 μg含有ディスクを使用していますが, この場合, 口腔内連鎖球菌群は発育抑制されるので阻止円内の目的菌が容易に釣菌できる利点があります。 (琉球大学・仲宗根 勇)
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