■抗酸菌の塗抹陽性・培養陰性は“医療事故”!!?? | |
【質問】
中小病院に勤務する検査技師ですが, 抗酸菌の塗抹陽性・培養陰性に遭遇し, 苦しい立場におかれています。先ず私達が経験した抗酸菌の塗抹陽性・培養陰性の概略を述べさせて戴きます。 昨年初め, 当検査室に外来患者の喀痰の抗酸菌検査が提出され, 塗抹検査 (チール・ネルゼン法) で菌を認め, 陽性 (集菌法にてガフキー2号) の報告をしました。しかし同時に行った小川培地による培養ではコロニーは認められず, PCR法も陰性でした。当検査室で塗抹陽性の報告をした翌日, 患者は当院の紹介で専門病院に入院され, そこで3回喀痰の検査をされましたが, 塗抹・培養・PCR法すべて陰性で, 約一ケ月程で問題ないとのことで退院されました。 先にも述べましたように, 当院での培養は12週目まで行い, 陰性でしたが, 8週目頃, 細菌担当者が小川培地の表面が少しザラザラしているように感じ, その一部を擦過して標本を作製したところ, 抗酸菌を認め, 早速他施設で確認をしていただいた後, このことを先生方に報告しました。この時点で私達検査室に鏡検のミスはなかったと考えておりました。 ところがこの後, この件に関して院内に“事故調査委員会”が設けられ, そこで“今回の例では鏡検の誤りであった可能性が最も高いと考える。今後, この様な「誤り」を繰り返さない為には, 喀痰塗抹標本にて結核菌または抗酸菌が疑わしい細菌が見られた場合, 細菌の専門家にチェックしてもらえる様な体制が確立されることが望ましいと考える。”との考察が出され, この文章が職員食堂の前に貼り出されてしまいました。 そこで私達は直ちに培地表面からの擦過標本を数枚作り, 市内の細菌担当の技師の方々や○×センター, そして当医局長の知り合いの大学の先生にも鏡検をお願いし, 抗酸菌に間違いないとの報告をいただいた後, この件について再度調査をして下さるように病院側に文章でお願いしましたが, 相手にもしてもらえません。また事故調査委員会の文章が貼り出されたことで, 私達が鏡検ミスをしたと皆に思われ, 抗酸菌を認めても外部の方の確認をお願いしなければならず, 苦しい毎日が続いています。 概略を簡単に述べてみましたが, 特に次の2点について教えて戴きたいと思います。なおその際, 関係する文献や書籍などがありましたら, 紹介していただければ幸いです。 (1) 培地表面の擦過標本から抗酸菌が検出されたことをどのように解釈すればいいのでしょうか。抗酸菌は環境が発育に適さない場合でも増殖することなく半年位はそのままの状態で生き続けるとの話を周囲の技師の方から聞きました。また“抗酸菌はたとえ死んでもその形態と染色性はかなり長期間保持される”と文献で読みました。このことからも培養2〜3ヶ月の培地表面から抗酸菌が検出されても不思議なことではないと考えております。それどころか患者の喀痰の中に抗酸菌がいたことを充分に証明できるのではないかと考えています。(今回の件で塗抹陽性と報告した標本を処分してしまったことは, 私達の唯一の大きなミスだったと悔やんでいます) (2) 一度だけ排菌して, その後排菌しないことがあるのでしょうか。残念ながらこの件についてはあまり知識がありません。しかし事故調査委員会の委員長から“紹介先の病院で菌が検出されていないではないか”と言われ,
困っています。
【回答】
(1) の培地表面の擦過標本から抗酸菌が検出とありますが, これをさらに純培養されたのでしょうか??? 他の培地 (血液寒天培地や普通寒天培地など) での発育を確認されたでしょうか??? 小川培地では発育不良な一般細菌もあります。塗沫標本の破棄は, まさかこのような事態になるとは予想もしていないために起こったことであり, 今後は陽性例については期間を決め保存することで対応されれば良いのではと思います。集菌塗沫法で実施する場合, 処理液により死滅する非定型抗酸菌 (例えばM. chelonei)もあり, 塗沫陽性・培養陰性になり注意が必要です。 (2) の排菌については, 治療薬や病巣部位により差が生ずるものと思われますので「紹介先の病院で菌が検出されていない」を証拠として言われてもそれは困ると思います。生体は常に変化しているのですから, 科学的な証明に努める必要があります。参考文献としては, 臨床と微生物Vol. 28 No. 3 2001(近代出版)に「最近の抗酸菌検査」を特集し, 塗沫検査から抗酸菌検査結果をどう解釈するかまで掲載されています。また「塗沫陽性・培養陰性」については, 「臨床検査Q&A」小酒井望監修, p 137〜138 (宇宙堂八木書店, 東京), 昭和58年 (1983) があります。 (愛媛大学・村瀬光春)
【回答への追記】
もうひとつの問題点は「事故調査委員会」の姿勢です。どうも質問者の内容を読みますと, 一方的な勧告を強要しているように感じます。医療事故を起こした時の, 改善に向けた対応として最も重要なことは, 類似する事故の発生を防ぐことです。そのためには, 当事者が何故, そのような事故に至ったのか自覚することです。質問で記載された調査委員会からの勧告からすると, 当事者はむしろ萎縮し, 自信を喪失し, 以後ビクビクしながら検査業務に携わるか, 勧告そのものをナンセンスとして無視することが予想されます。もし誤った報告をしたかもしれないと自覚される部分があるのでしたら, その誤りを再び繰り返さない改善に向けた検査対策を主体的に, 自主的に考えることが重要です。 頑張ってください。参考に, 私個人の安全管理への意見を掲載したホームページを紹介しておきます。 (琉球大学・山根 誠久)
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