03/01/29
■ 気道内吸引手技の細菌学的評価
【質問】
はじめまして, こんにちは。私は看護師ですが, 今回院内で気道内吸引の手技の見直しをしています。その吸引手技方法を変えても感染が増えない, もしくは変わらないと仮定して, 培養をとって評価したいのですが, 何をどのように培養検査したらよいのでしょうか。よろしくお願いします。

【回答】
 培養する材料の中の細菌の評価方法には定性的方法と半定量あるいは定量的方法があります。今回の培養する材料は気管吸引物ですので, 粘液または膿のような性状の材料が推測されます。いずれの評価方法を用いるにしても, 最初に材料を液状化する必要があります。

〔材料の液状化〕
・検査する材料の量を凡そ推定し, その10倍の量の粘液溶解剤 (喀痰溶解剤) を加え, 検体を溶解します。この溶解液を培養材料として用います。

〔定性的培養方法〕
・普通の白金耳 (規格化された白金耳ならさらに良い) で寒天培地にいつも同じ方法で材料を塗布します。塗布する方法は2方向, 3方向, 4方向などがあります。

・結果の解釈と評価: 1晩培養して, 塗布した部分に観察される凡その細菌コロニー数を判定します。この場合, コロニー数は材料中に含まれる細菌の濃度が多い程, たくさんのコロニーが作られますが, 材料を塗布した時の白金耳を動かすスピードによって, コロニー数を数えることが困難になる場合もありますので, 一人の人ができるだけ, いつも同じスピードで塗布するのが良いです。

〔定量的培養方法〕
・液状化した材料を生理食塩水で100倍, 1000倍, 10000倍に希釈します。材料に含まれる細菌の濃度は, 最初の液状材料を染色して顕微鏡で観察した時, 細菌が1〜9個くらい認められる場合には1 mlに約10000〜100000個の細菌がいますので, これらを考えて希釈倍数を計算すると便利です。希釈した材料をピペットなどで一定の量, 寒天培地に滴下し, コンラージ棒で培地全面に塗り広げます。検査室によっては自動的に一定の量の材料を塗布する機器もあります。寒天培地に全体で, 10〜100個程度のコロニーが作られる希釈した材料を培養すると, コロニーの数を数えるのも容易です。

・結果の解釈と評価: 寒天培地に観察されるコロニーの数を数えます。その材料の希釈倍数と寒天培地に接種した材料の量から, 元々の材料に含まれていた細菌の濃度 (個/ml) が計算できます。

 最後にご質問にありました, 感染が増加しない, または変動しないとの仮定についてですが, 感染症診断での解釈, 評価には材料に含まれる細菌の濃度で評価することも重要ですが, それだけでは充分な評価になりません。特に, 今回検査する対象となる気管吸引材料には口腔内の各種の常在菌, 気管切開した患者では緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌が定着しやすい状況にあります。感染の増加という評価より, 吸引方法の変更による吸引物のなかの菌濃度の変化として理解されてはいかがでしょうか。

(琉球大学・仲宗根 勇)

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