00/11/28
■ 在宅看護とMRSA (その他の微生物も含めて)
【質問】
 在宅介護をうけている方が, ディサービスを利用する場合, 入浴と他の利用者への影響について(感染しないか)どうすればいいのか教えてほしいのです。
 寝たきりで, 発熱があっての入院や, 同じく長期入院後退院になって在宅へ戻ったものの, MRSAが少量‥‥±よりもっと少量との検査結果とのことです。

【回答】
1. 在宅介護及び福祉施設等において問題となる感染対策について
 在宅や福祉施設内において問題となる主な感染症は, HBV (B型肝炎ウイルス), HCV (C型肝炎ウイルス) およびMRSAの各々保菌者の扱いが問題になると思われます。 

2. HBV, HCVおよびMRSA保菌者への施設内対応法について

個人専用物品 カミソリ, 歯ブラシ, 手拭いは各自専用とする
入浴     制限なし (HBV, HCV), MRSAは最後に入浴
生理中の入浴 その日の最後に入浴し, 浴槽を洗浄・消毒する1)
食器     制限なし
排泄物    本人に手指洗浄を指導2), 排泄物は消毒不要 
オムツ    使い捨て紙オムツを使用, 布は消毒後に再使用3) 
体の清拭   制限なし: 出血・感染病巣のある場合は制限あり4) 
本, 雑誌類  血液汚染のない限り制限なし (HBV, HCV), MRSA は制限あり5)
行動制限  制限なし(HBV, HCV), MRSAは制限あり6)
面会    制限なし7)

注意
1) 浴槽の洗浄・消毒は, 浴槽を水道水 (塩素が有効) で十分に水洗後, バスマジックリン (界面活性剤として9%のアルキルベタインを含有: ウイルスの外殻に傷害を与える) で十分清掃する。または, 水洗後に70〜80%の消毒用エタノールを十分に噴霧し消毒する。この場合, 火気には十分注意して下さい。また, 体表のMRSAを除菌するには50〜100倍希釈の逆性石鹸にて消毒して下さい。実践的な方法としては新しいスポンジ (専用) をお湯に浸しキャップ1杯の消毒液 (原液) を加えよく泡立たせた後に, まず自分の手指や上腕内側につけ30秒から1分程度待ってから「しびれ」のないことを確認して下さい。その後に患者さんの全身をゆっくりと5分以上かけて消毒し, お湯にて消毒液を十分洗い流して下さい。 

2)外生殖器にMRSAを保菌している方の場合は, 処置後十分に手指を石鹸洗浄を実施させて下さい。また, 濃厚にMRSAを保菌している患者さんの場合は, 石鹸洗浄後にアルコール消毒 (ウエルパスなどでも可能) を実施させて下さい。手袋を使用し, 介助をしたスタッフも処置後は同様に石鹸洗浄またはアルコール消毒を実施して下さい。 

3)布オムツを再利用する場合は, 使用後のオムツを十分に流水で洗浄後に100倍希釈の次亜塩素酸ソーダ (ハイター, ミルトン, ピューラックスなど) または0.2〜0.5%のステリハイドに1時間以上侵漬した後に, 洗濯し完全に乾燥させてから使用して下さい。いずれの消毒剤もその都度新しい液と交換し換気に注意して下さい。 

4)HBVまたはHCV陽性の方で, 体表に出血のある場合は, ディスポーザブルの手袋を着用し, 清拭して下さい。また, 腋下にMRSAを濃厚に保菌している方の場合も同様に手袋を着用し, 終了後に手指を十分に洗浄・消毒して下さい。HBV, HCVおよびMRSAに最も早く確実な消毒剤は, 70〜80%消毒用エタノールです。(消毒用容器としては, 家庭園芸用のスプレー容器が安価で便利です。) なお, 作業中にHBV, HCV陽性の血液で手指・皮膚が汚染された場合は, 直ちに流水で十分に水洗し, 100倍希釈の次亜塩素酸ソーダを染み込ませた脱脂綿で汚染部位を丁寧に拭き取る。 

5)HBV, HCV陽性の血液で雑誌類が汚染された場合は基本的に廃棄する。汚染の程度が微少な場合は, 100倍希釈の次亜塩素酸ソーダを染み込ませた脱脂綿で汚染部位を丁寧に拭き取る。またMRSA保菌者の場合は, 読書前に十分に手洗いとアルコール消毒を実施する。 

6)MRSAの保菌部位が上気道に限局し, 咳などをしていない方や, 完全に被覆可能な褥創の場合は行動制限をゆるめても結構です。

7)乳幼児などとの濃厚接触は制限する。 

3. HBVの感染性について
 感染の危険性は, HBVキャリアまたはB型肝炎発症前後の一過性のキャリア患者の唾液および汗に分泌されるウイルス量が問題となります。HBVキャリアでは血中のウイルス量の1/1000〜1/10,000程度が唾液および汗に分泌されますが, この程度の量では感染性はないと考えられています。また, 食器洗浄や浴槽ではさらに大量の湯水で希釈されるわけですから, 出血がない限り感染の危険性はありません。ただし, 処置をするスタッフの手指などに切傷がある場合は, 処置前に完全に被覆するか, ディスポーザブルの手袋を使用して下さい。 

4. HCVの感染性について
 HCVの場合は, 患者の血中ウイルス量がHBVに比べ非常に少なく, チンパンジーの感染実験より, その量はHBVの1/10万〜1/100万という結果が報告されています。また, HBV同様, 血中のウイルス量の1/1,000〜1/1万程度が唾液および汗に分泌されますが, この程度の量では感染性はないと考えられてます。従って感染対策はHBVに準じていただければ結構です。

5. MRSAについて
 MRSA保菌者の場合は, 口腔および上気道にMRSAを大量に保菌している患者が問題となりますが, 口腔内の菌量は多くても「10^5〜10^6/1ml 液」程度です。これらの唾液の一部が食器に付着したとしても, 洗浄過程で希釈・熱消毒されますので, 一般の患者に対しては問題はありません。

6. 福祉施設のスタッフに関するアドバイス
 福祉施設のスタッフの方には, B型肝炎ウイルスのワクチン接種を就職時に実施することを奨めます。また, 上記感染症の他に, HIV (エイズ) キャリアー, 活動期の梅毒患者, 疥癬およびクロイツフェルト・ヤコブ病患者が問題となりますが, 特殊な例ですので必要な時に再度ご質問下さい。 

(大阪大学・浅利誠志)

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