02/02/08
■ MRSA陽性新生児の沐浴での“かけ湯”
【質問】
 NICUに勤務する者です。咽頭, 便, 臍にMRSAが検出された児の沐浴について, 沐浴後“かけ湯”をする必要がある, その必要はないとの意見が分かれています。沐浴後に“かけ湯”をしてもMRSAの除去にはつながらないと思うのですが, ご意見お願いします。

【回答】
 通常のお湯を用いた沐浴後の「かけ湯」は, 「やらないよりやった方がまし」・という程度です。
[理由]
 新陳代謝の激しい新生児の咽頭や臍帯にMRSAが検出された場合, 多くの症例で腋下, 股間などにも保菌しています。これらの菌の付着は, 菌体外に産生されるスライムという粘着成分で強固に皮膚表面に付着しているため「かけ湯」では除去できません。また, 新生児は発汗量が多いので腋下や股間 (糞便からの継続汚染) に存在するMRSAは菌量も増えています。このため, かけ湯では除去できませんし, 顕著に菌量を減らすこともできません。

[注意]
 新生児がMRSA を保菌しますと常在菌化することが多く, なかなか除菌できません。これは, 通常, 生直後に善玉常在菌叢が上気道に定着し, 口腔や気道粘液中にバクテリオシンという病原菌の増殖を抑える物質を産生しますが, これより先にMRSAの汚染を受けるため増殖を抑制できないのです。・・いづれにせよMRSAは, 職員が直接または医療器具・機材, リネン類などから伝播させているのですから病院側の責任です。また, 保菌していても症状を呈さない新生児が多いことよりMRSAは「常在菌です」・・と言ってる方がおられますが, 退院後にインフルエンザなどに罹患し, 近医にて抗菌薬投与を受け選択的に増殖したMRSAにより肺炎や多発性蜂巣織炎を発症しているケースも散見されます。生直後のMRSA保菌は, 退院後の新生児のQOL (生活の質) を大きく左右しますので私は「常在菌ではない」と考えます。また, 同時に保菌させてはならないと考えます。

[臍帯部の処置]
 臍帯部にMRSAが確認された場合, 0.2%ミノサイクリン軟膏を塗布してみて下さい。軽い炎症の場合や保菌では簡単に除菌・治療できます。

[NICUとしての対応]
MRSAの発生が高頻度に継続しているのでしたら, 感染対策の医師を中心にNICUのゾーニング, 消毒方法の見直し, 環境調査, スタッフの保菌検索などを実施し, 汚染源, 汚染ルートの特定をされたらいかがでしょうか? 汚染源が特定できない場合は, 思い切って病棟を閉め切り, 部屋全体および医療器具・機材も消毒しますと発生は数ヶ月間, 抑えられます。この消毒の後, MRSAの発生を継続的にモニタリングし, 以後の発生状況を分析し, 効果的な対策を取られたらいかがでしょうか? 汚染が継続している施設では, “沐浴のかけ湯が必要か否かなどのレベルの問題ではなく”, 根本的な見直しが必要です。

(大阪大学・浅利誠志)

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