|
【質問】
私の息子がMRSAに感染したと医者から告げられました。息子は双胎間輸血症候群により予定日より2ヶ月早く生まれました。当初,
多血, 呼吸困難, 心不全などの症状が見られましたが, 今ではよくなっているようです。低出生体重児のためNICUに入院中です。医者からの説明は,
MRSAは健康な人でも持っている菌で, MRSAに感染したからといって病気を引き起こすわけではないので,
MRSAが消えるのを待つということでした。しかし, この「質問箱コーナー」を拝見させていただいて,
MRSAはすぐには消えないことなどを知り, これから先が不安になってしまいました。低出生体重児が生後1ヶ月でMRSAに感染した場合,
どのような症状がでるのか, 治療はどんなことをするのか, これから先本人・家族はどんなことに気をつけなければいけないのか教えて欲しいです。
【回答】
MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) などという聞き慣れない言葉を聞き,
さぞかしご不安のこととお察し致します。MRSAが検出されても, 注意深い観察と定期的な検査がされている場合は,
多くの場合, 発症にはいたりませんが, 注意を怠りますと臍帯炎や肺炎などに移行する場合があります。このようなケースで散見されます症状と注意事項についてご説明しますのでご一読下さい。
「散見される感染症状」
1. 臍帯炎: 臍の中心部・周囲が赤く腫れて炎症を起こすことがあります。
→毎日の観察で気付きます。適切な治療が必要です。
2. 眼脂(めやに)の増加: 外眼部の眼脂 (めやに) が増加し, 黄色を帯びてきます。
→毎日の観察で気付きます。適切な治療が必要です。
3. 中耳炎: 他のところに感染らしいものが見られないのに, 激しく泣く場合に疑います。
→耳鼻科の専門医に診て頂きます。適切な治療が必要です。
4. 皮膚の剥離: まるで熱傷の時のように, 皮膚がめくれるようにただれることがあります。
→MRSAが産生する表皮剥離毒素 (エピデルモライティック・トキシン)
によって起こります。即座に適切な治療が必要です。
5. 皮疹が急速に拡がる場合も要注意です (トビヒのように全身に拡がることもあります)
→中心部の膿瘍(うみをもった皮疹)が小さくても, 赤くなった部分が大きく,
硬い場合も要注意で, 皮膚科の専門医に相談する必要があります。適切な治療が必要です。
6. 肺炎: 多くの場合, 発熱と咳を伴って発病しますので臨床経過に注意していますとすぐに気付きます。
→咽頭をぬぐった検体や吸引して採取した痰を培養したり, レントゲン撮影などにより診断します。適切な治療が必要です。
7. 急激な下痢: MRSAが産生する腸管毒 (エンテロトキシン) により発症します。
→急激な下痢症状を来した場合には, ショック症状を示すことが多いため,
迅速な対応が必要です。
「観察事項」
1. 最も簡単な観察ポイントは, ミルクを元気よく飲むか否かを観察します。全身に力がなく,
ミルクを飲まないようでしたら主治医に相談しましょう。
2. 肉眼的な観察ポイントの実施: ノートに記録しておくとさらに有効です。
全身状態 (いつもと違うという感じ), 熱の有無, 眼脂(めやに)の有無,
皮膚のめくれ, 発疹の有無・大きくなっているか。臍帯部や陰部の発赤・腫れの有無,
下痢の有無 (便の色や匂いにも注意), 咳の有無など
3. なかなか泣きやまない, または激しく泣く場合: 中耳炎などを疑い,
主治医にすぐに相談して下さい。
4. この他にも気付いた事をノートに記録しておくことをお奨めします。
「注意事項: 衛生面」
1. 赤ちゃんの哺乳瓶は, 通常通り正しく煮沸消毒して, 衛生的に注意して管理して下さい。
2. 赤ちゃんの身体の代謝は活発ですので, リネン類 (シーツなど)をこまめに交換し,
清潔を保持して下さい。また, リネン類の洗濯は通常通りの洗濯で結構ですが,
十分に乾燥させて下さい。
3. 赤ちゃんのリネン類を交換した後やおむつを交換した後は, 御自分の手を石鹸で十分に洗いましょう。
「留意事項: 家族」
ご家族がすべて大人の場合は, 前記の衛生面に注意するだけで十分です。ただ,
高齢者で免疫力を低下させるようなお薬 (ステロイド剤や抗癌剤など) を服用されている方や就学前の小さなお子様がおられる場合は,
しばらくの間, 赤ちゃんとの濃厚な接触は控えて下さい。
以上、ご家族ができる観察事項についてご説明しました。
(大阪大学・浅利誠志)
|