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【質問】と【回答】
主婦です。今, 5ヶ月になる息子のことで不安なことがあります。その経緯をお話しますのでご相談のほど,
宜しくお願い致します。
9月にA病院にて出産。10月にA病院にて1ヶ月健診をうける。A病院で10月から11月に出産した母子のMRSAの院内感染の報道を2月に知る。12月に高熱
(39.3度) でけいれんをしたため, A病院に入院。尿路感染症と診断されるが, 入院前に当直の病院でもらった抗生剤入りの薬を1回飲んだため,
原因菌は消えて判らないと説明を受ける。抗生物質の投与 (1日3回) と輸液が始まる。入院3日めぐらいにMRSAが発見されたと聞く。しかし,
誰もがもちうる菌で心配はないとのことで, 特に気にはしない。入院中も家族や見舞い客は手袋などすることもなく,
普通に接する。1週間の抗生物質と輸液の投与がおわり, 翌日, 退院。以前から荒れていた皮膚がよりひどくなったため,
2月に近所の皮膚科へ行き, ステロイド入りのリドメックスコーワ軟膏と亜鉛華軟膏,
その後ベシカム軟膏を処方される。今現在, 皮膚はだいぶ落ち着いてきたが, 黄色い“かさぶた”ができたり,
赤く炎症をおこしている箇所もある。
これはMRSAが発症しているのでしょうか?
→MRSA以外にもこのような炎症を起こす原因は沢山ありますので,
皮膚科にて培養検査を行い, MRSAが検出されるか否かを確認し, 皮膚科の先生のご意見を伺って下さい。アトピー性皮膚炎が基礎疾患にあり,
MRSAが二次感染しますと, 同様の炎症を起こすことがあります。このような場合,
通常の軟膏は効きにくいですので, 下記の軟膏の塗布を試みてみるのも一策です。皮膚科の先生が一度使用されるというのでしたら再度ご質問下さい。調製方法をご連絡します。
0.2%ミノサイクリン軟膏(特殊調剤となりますが,
調製は簡単です)
MRSAの保菌者ということになると思いますが, この先どういったリスクが考えられるでしょうか?
定期的に小児科へ行く必要がありますでしょうか? まわりに3歳の長男や糖尿病の人,
ステロイドを服用している人がいます。普通に接してもかまわないでしょうか?
→MRSAはA病院にて伝播されたと考えられますが,
退院時から11月までは感染兆候がなかったのですから「保菌状態」と考えられます。通常は感染症を起こしませんが,
喘息やアトピー性皮膚炎等を基礎疾患を有する乳幼小児は幾分, 注意が必要です。
リスクとしては, 下記の感染兆候が確認された時点で早めに受診することをお奨めします。また,
感冒時に小児科医院などで二次感染予防のために処方される抗菌剤が引き金となって下記の症状を呈することもあります。
「散見される感染症状」
1. 眼脂(めやに)の増加: 外眼部の眼脂が増加し黄色を帯びてきます。
→毎日の観察で気付きます。適切な治療が必要です。
2. 中耳炎: 他の部位に感染兆候が見られずに激しく泣く場合に疑います。
→耳鼻科の専門医に診て頂きます。適切な治療が必要です。
3. 皮膚の剥離: 熱傷時に皮膚がめくれるように皮膚がただれることがあります。
→MRSAが産生する表皮剥離毒素
(エピデルモライティックトキシン) によって起こります。即座に適切な治療が必要です。
4. 皮疹が急速に拡がる場合も要注意です
(トビヒのように全身に伝播することもあります)
→中心部の膿瘍が小さくとも発赤部分が大きく堅い場合も要注意で,
皮膚科の専門医に相談する必要があります。適切な治療が必要です。
5. 肺炎: 多くの場合, 発熱および咳を伴って発病しますので臨床経過に注意していますとすぐに気付きます。
→咽頭や吸引痰を培養およびレントゲン撮影などにより診断します。適切な治療が必要です。
「観察事項」
1. 最も簡単な観察は, ミルクを元気よく飲むか否かを観察します。全身に力がなくミルクを飲まないようでしたら主治医に相談しましょう。
2. 肉眼的な観察の実施: ノートに記録しておくとさらに有効です。
全身状態 (いつもと違う?), 熱の有無,
眼脂の有無, 皮膚のめくれ, 発疹の有無・拡大?, 臍帯部や陰部の発赤・腫れの有無,
下痢の有無 (便の色, 匂い), 咳の有無などです。
3. なかなか泣きやまない, または激しく泣く場合:
中耳炎や膀胱炎などを疑い主治医にすぐに相談して下さい。
4. この他にも気付いた事をノートに記録しておくことをお奨めします。
「留意事項: 衛生面」
1. 赤ちゃんの哺乳瓶は通常通り正しく煮沸消毒し,
衛生的に管理して下さい。
2. 赤ちゃんは代謝が活発ですので,
リネン類をこまめに交換し, 清潔を保持して下さい。またリネン類の洗濯は通常通りの洗濯で結構ですが,
十分に乾燥させて下さい。
3. 赤ちゃんのリネン類交換やおむつ交換した後は,
石鹸で十分に手を洗いましょう。
「留意事項: 家族」
ご家族がすべて大人の場合は, 前記の衛生面に留意するだけで十分です。ただし,
高齢者で免疫を低下させるようなお薬 (ステロイドや抗癌剤など) を飲んでいる方や就学前の小さなお子様がおられる場合は,
暫くの間, 赤ちゃんとの濃厚接触は控えて下さい。この場合の濃厚接触とは, オムツを交換したり,
お風呂に一緒に入ったりすることをいいます。ステロイドを飲まれている方でも日常の接触程度では影響ありません。
A病院の診断と処置は適切だったのでしょうか?
→尿路感染症と診断され, 輸液投与で完治したのですから,
診断・処置は正しかったといえます。ただしMRSAが発見されたと記述していますが,
どこの部位からなのでしょうか? 恐らく鼻腔または咽頭などの部位と思われますが・・・MRSAに効くお薬を投与したか否かです。
*注意: 乳児・小児で膀胱炎や尿道炎を起こす場合は,
尿道奇形などを伴っているケースが多いですので, 通常は奇形の有無を確認します。また女児の場合は,
尿道口が短いので, おむつの糞便中の菌が上行感染し, 膀胱炎を発症することがあります。男児では女児に比べて頻度は少ないですが,
同じ様に膀胱炎をおこします。
MRSAに感染して発症するのにどれほどの時間がかかるのでしょうか?
→個人差が大きいため回答出来ません。しかし健康な状態では発症しません。
A病院で院内感染したと思うのですがどうなのでしょうか?
→経過から推察しますとA病院で出生時に保菌状態になったと考えられます。
今後, 普通に生活していていいのでしょうか? 本人, また周りの人に対して気をつけることはありますでしょうか?
→上記の注意事項を参考にして下さい。
乳児健診時にMRSAに感染したことを知らせなくてはいけないでしょうか?
→小児科学会ではMRSAを常在菌として認識していること,
また検診時に感染兆候が見られなかったため, 病院側からの説明がなかったと思います。説明するか否かはその施設によって異なります。
予防接種は普通にうけていいのでしょうか?
→発熱や感染兆候がない場合は問題ありません。
なぜA病院は退院後のMRSAについて何も指導しなかったのでしょうか?
それは何も問題がないと思っていいのでしょうか?
→基本的には, お子さんに問題がなかったので説明をされなかったと思います。しかし,
MRSAが問題となっている施設の真摯な対応としては, 症状のない方に対してもMRSAに関する説明をすべきと考えます。
以上ですが, MRSAの保菌や感染症については,
医療スタッフの知識に大きな差が見られるため, 患者さんに対する説明も異なっているのが現状です。
MRSAについてよくわからないので不安です。宜しくお願い致します。
(大阪大学・浅利誠志)
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