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【質問と回答】
1年ほど前に両大腿骨頭壊死症にて左股関節に人工股関節を入れました。右は以前に回転骨切り法で処置済みです。今回,
左の人工骨頭を入れた部分が腫れたため, 診察を受けたところ当初の検体からは菌が検出されず,
切開による排膿と消毒による治療を続けていましたが, 治りが悪いので骨シンチによる検査も受けました。そのところ特に異常は見られないとのことでした。しかし,
まだ治りが悪く入院して大きく切り開いて徹底的に排膿する手術をうけたところ,
膿んでいる部分が埋め込まれた人工骨まで達していたとのこと。再度, 菌の検出検査を受けたら,“MRSEに感染している“との結果が出ました。6月18日に人工骨撤去の手術を受けます。歩行は今後ずっと不自由になると思います。
(Q) このMRSEは院内感染の疑いはありませんか???
(A) 詳しい臨床経過がありませんので明確には返答できませんが,
術中感染による院内感染と思われます。
理由: 術中に感染したMRSEの病原性が低いため,
術後半年, 1年経過後に発症してきたと考えられます。臨床経過からみてもMRSE感染の典型例です。
(Q) ちなみに最初に左太ももが膿んで小さくぷっくりと腫れたときにはまったく外傷がなく,
なぜ膿んだのかよくわかりませんでした。
(A) 術後, どの程度の経過日数で腫れてきたのか不明ですが,
局所の強い熱感や痛みをあまり感じずにゆっくりと進行してくるのがMRSE感染の特徴です。
(Q) 今後の治療後の歩行状態などにもアドバイスお願いします。新たに人工骨を埋めることはできますか???
一般的にはどうなんでしょうか。
(A) 最も重要な問題は, 現在のMRSE感染を徹底的に完治させることです。炎症がひどい場合,
一度人口骨頭を除去します。この時の手術で不良な肉芽や壊死組織を除去し, 徹底的に根治させなければ新たな人口骨頭を入れることはできません。治療のポイントは,
前記の感染壊死組織の除去と骨髄炎に順ずる抗菌剤療法を行うということです。通常,
抗菌剤療法は, 最適療法を開始したとしても4〜6週間前後はかかります。なかには3ヶ月前後を必要とする事例も稀ではありません。
[6月の手術では肉眼的に壊死した組織のみを除去すると思われます。この時,
一部のMRSEは組織内に残ります。この除去しきれない組織内の細菌を抗菌剤で治療するのですが,
抗菌剤が高い濃度に深い組織まで移行するのに4〜6週間が必要なのです (特殊な抗菌剤を併用します)。また,
根治療法が不完全な状態で再置換術を行いますと再燃しますので, 感染症が完治した状態を最低4週間以上継続させてから抗菌剤を中止することが大きなポイントです。]
(Q) 一番知りたいのは, 自分は教師をやっていますが,
職場復帰できるかどうかと院内感染の疑いについてです。
(A) 根治療法が短期間で完了すれば, 再度人口骨頭を入れ,
リハビリテーションが開始できますので, 職場復帰は可能です。また, 院内感染か否かにつきましては,
詳細な臨床経過がありませんので明確な返答はできませんが, 整形外科におけるこのような感染は通常,
院内感染 (術中感染) です。
[このような整形外科における感染症の多くは, 患者さんが皮膚表面に保菌している菌が原因となることが多く,
手術に伴う感染リスクとして避けられません。今は「院内感染か否か」という問題ではなく,「如何にMRSE感染を治癒させるか」ということが問題です。]
(大阪大学・浅利誠志)
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