02/09/20
■ MRSA患者の隔離解除について
【質問】 
 私立病院の一般内科医です。 当院でも院内感染対策委員会を設け, 院内感染予防対策マニュアルを作成することになりました。3年前に上記のマニュアルを作成していましたが, もともとあった当院のマニュアルでは“MRSAの隔離を解除する場合”として“一週間に1〜2回細菌培養を行い、3回以上陰性だった場合に隔離病室からの退室を許可する”と決めていました。

 これに対して当院の呼吸器科医師より「MRSAの呼吸器感染症を発症し, バンコマイシン等の薬剤を使用中に痰培養を行うと培養結果はいったん陰性になってしまう。しかし, 慢性呼吸器疾患の場合, 炎症反応が陰性になってしばらくしてから痰培養を行うと再び陽性を見ることがあり, その度に院内のMRSA感染報告を出し, 隔離を繰り返すことになる。また培養結果が返ってくるまで, 当院のように外注検査だと迅速検査でも一週間かかり, 培養結果陽性で排痰量が多い患者の場合, 同室者はその間ずっとMRSA伝播の危機にさらされると考えると, 院内感染が発症するのもある程度やむをえないのではないか。また, 3回連続陰性を確認するまで培養を繰り返すのは医療コストの面から見てもどうか。以上から, 培養結果の陰性を確認するのは, どの時期に行うべきなのか」とマニュアル内容の改定を求める発言がありました。 

 当院は180床程度の大きさの病院で, 病棟も外科・内科・整形外科の混合病棟です。以上についてご意見をお聞かせ願えればと思い, メールしました。よろしくお願いします。

【回答】
 御存知と思いますが, CDCの提唱する感染経路別予防策 (Transmission-Based Precautions) では, MRSA感染症の主体は接触感染であり, 多くの症例では接触予防策を徹底すれば, 隔離の必要性は低いと解釈されています。ただし, 喀痰の排出が極めて多い患者さんや同室患者がコンプロマイズド・ホストである場合には個室隔離を行うこともあります。私どもの施設でもこの考えをもとに, 原則としてMRSA患者の個室隔離は行っておりません。喀痰からMRSAが検出される頻度が最も高いのはどの施設でも同じと思いますが, 喀痰の飛沫で感染するリスクは極めて少ないというのがEBMに基づいた解釈です。実際, MRSA院内感染の統計をみても, MRSA陽性者の隔離を実施していた時期と現在との比較でMRSA陽性者および感染率に有意の差はありません。

 MRSA感染症が完全に治癒してもMRSAが常在菌化 (コロニゼーション) することも稀ではありません。老健施設や老人ホームなどではMRSA陽性者は引き受けていただけないこともありますので, そのような場合には当施設では2回陰性を基準としております。黄色ブドウ球菌の70%以上はMRSAであり, 環境にも勿論, 病院内にも広範囲に生息しているというのが通説になっておりますので, あまり神経質になる必要はありません。ただ, 下痢や発熱などの臨床症状を伴う便からの検出例 (MRSA腸炎) や敗血症を含む血流感染 (血液培養陽性) では, 的確な対処 (治療を含めて) が必要です。

(NTT東日本関東病院・岡田淳)

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