02/10/30
■ MRSAの保菌??? 感染???
【質問】
 7月26日, 直腸癌手術でストマとなり, その後8日目に正中創と旧肛門部よりMRSA陽性の結果がでました。入院時MRSAスクリーニングは (−) でした。このMRSAは保菌でしょうか, 感染でしょうか???

 さらに10月3日に足切断となり, その切断部ドレーンよりMRSAとコアグラーゼ (?) ブドウ球菌, β−lactamase (+) が検出されました。後者の菌は抗菌薬 SBT/ABPC耐性という結果でした。これはMRSEと判断していいのでしょうか???

【回答】
 Staphylococcus は一般に生体と共生関係もっているが, 外傷による傷害, 医療処置 (異物) などで傷害が与えられた場合には, これらの組織に侵入, 増殖して病原性を有します。

 ご質問の術後, 正中創と旧肛門部から検出されたMRSAが保菌または感染かの質問ですが, 膿瘍材料からの起因菌決定は非常に複雑であり, まず材料の採取法が問題となります。綿棒採取の場合には感染部位以外の周辺からの汚染菌を同時に採取する危険があります。従って膿瘍材料の材料採取には注射器などでの穿刺採取法が最良の採取材料となります。また膿瘍感染起因菌は膿瘍自体ではなく, 膿瘍と生体組織の接触部分に最も多く生息するとされています。以上のことから検出菌種のみでは感染または保菌の判断は困難となります。膿瘍からの起因菌決定法で以下を考慮して判定すると良いと思います。

 (1) グラム染色下での白血球を多数認める。
 (2) 検出菌種が白血球に貪食像を認める。
 (3) 検出菌量が最も多数を占める。
 (4) 感染部位から純培養で検出される。
 (5) 感染部位から複数回, 同一菌種が検出される。

 上記のカテゴリーを満たさない膿瘍検出菌種は保菌または汚染菌が考えられます。

 ご質問2のβ-lactamase陽性, SBT/ABPC 耐性CNSがMRSEかの質問について, NCCLSによるMRSの定義はオキサシリンでのMIC (≦0.25μg/ml: S, ≧0.5μg/ml: R) となります。MRSはβ-ラクタム系抗菌薬, アミノグリコシド抗菌薬, マクロダイド抗菌薬, クリンダマイシン, テトラサイクリン系抗菌薬などに通常, 耐性を示します。この多剤耐性の観察がMRSの可能性に手がかりを与えると思います。しかし一部のMRSはアモキサシリン/クラブラン酸, アンピシリン/スルバクタム, ピペラシリン/タゾバクタムなどのβ-ラクタム系抗菌薬に感性を示す場合があり, この場合でも臨床上, 効果が認められないので“感性と報告しない”ことが重要です。当院における血液培養から検出されたS. epidermidisの結果でもオキサシリン感性 (4株) はSTB/ABPCにすべて感性を示したが, オキサシリン耐性 (24株) のSTB/ABPCの結果は感性 (14株), 耐性 (10株) でありました。以上のことから, MRSをSTB/ABPCで判定するのは危険であり, オキサシリンの薬剤感受性試験またはスクリーニング培地での確認を実施した方が良いと思われます。

(琉球大学・仲宗根 勇)

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