03/02/21
■ 幼児の咽頭にMRSAが常在化したようです。
【質問】
 突然メールにて質問をさせていただきます。

 1歳4ヶ月の息子を持つ母親です。息子は尿路系に先天的な疾患があり, 手術をうける予定です。ところが, 去年8月には便からMRSAが検出されました。その後, 月2回, 咽頭, 尿, 便の培養検査をしながら様子をみてきましたが, 常在菌化してしまったのか, なかなか消えません。本人はいたって元気なのですが, 菌があっては手術ができません。最近, 尿や便からでることはなくなりましたが, 必ず咽頭から+1もしくは+2で検出されます。月1回で, 今まで3回ほど“バクトロバン鼻くう用軟膏”を試してみましたが, だめでした。そこで, ご質問ですが; 

 (1) “バクトロバン軟膏”は効果が出るまで使っても大丈夫でしょうか。

 (2) 咽頭にいるということは, 菌が体の中に流れていって, いつでも尿や便から検出される可能性があるのでしょうか。

 (3) 保菌したまま入院し, 術前に点滴で除菌して, 手術に臨むことはできるのでしょうか。その時の危険性はどのくらいでしょうか。

 毎日不安な日々を送っています。どうぞよろしくお願いします。

【回答】
 質問内容を拝見しますと, 尿路系に先天的な疾患があり, 便からMRSAが検出され, 以後も咽頭, 尿, 便から検出されている。本人は比較的に元気である。尿や便からは最近はMRSAは検出されていないが, 咽頭からはなお, MRSAが検出されている。バクトロバン鼻腔用軟膏では除菌ができなかった。どうしたら良いか。以上から, なぜ, 1歳4カ月の息子さんからMRSAが検出されるようになったのか, この背景を知る必要があると考えます。自宅ではいきなりMRSA保菌者にはなりません。恐らく上記の尿路疾患で病院に入院されたか, 通院をされ, 長期にわたり感染あるいは感染予防目的で抗菌剤を投与されていたようですね。長期間にわたり抗菌剤を服用しますとこのような結果になります。

 健康なヒトでは口腔, 腸管や皮膚などには常在菌 (ヒトの健康保持に重要) がおり, これら常在菌は侵入してくるMRSAを排除する働きをします。このため, MRSAを追い出すには常在菌の力を借りる必要があります。たとえ, バクトロバンで除菌しても, 常在菌がいなかったり, 働きが弱かったら, 競争相手 (常在菌) がいないため, 容易にMRSAは再々侵入してきます。息子さんは1歳4カ月で, 常在菌の働きはまだ弱いですが, 成長と共につよくなっていきます。重要なことは, 抗菌剤の使用は常在菌に大きなダメ−ジを与えることになるので, 抗菌剤の使用は短期間に留めるべきです。もし, バクトロバンを使用するとしたら, 月1回程度ではだめです。除菌は徹底し, 毎日1~2回, 1週間連続して使用して下さい。しかし, バクトロバンも長期に使用すると, MRSAは耐性を獲得します。

 (近畿大学・古田 格)

[戻る]