04/05/18
04/06/08
■ MRSAの感染性
【質問】
 はじめまして。私は, 大学の看護学科に通う学生です。MRSAに関して微生物学的に疑問を感じてメールしました。私は気になり出すと, 気になって仕方がない性格のため, 様々な本を読んだのですがよく分かりません。変な疑問かも知れませんが, 教えて頂ければ幸いです。

 MRSAとは, 「従属型栄養」の分類ですよね。では, なぜ体内から排出されてからも生きているのでしょうか??? 排出されてからは, MRSAはどの程度の期間生き続けるのですか??? また, MRSAが生きていないことには感染力はないですよね???

 勉強して, 微生物学とは難しいものだと思う反面, 興味が湧きました。質問の返答お願いいたします。

【回答】
 早速にお答えします。MRSAは確かに「従属栄養菌」に分類されます。ここで, この分類様式について整理してみましょう。菌の増殖にはアミノ酸やタンパクなどの栄養分やエネルギ−が必須であることはご承知の通りですが, それらを自ら合成し得るかどうかにより「独立(自家)栄養型」か「従属栄養型」かに分類されます。独立(自家)栄養菌では, 環境中のリンや窒素などの無機物を取り込み, 有機物に代謝して増殖します。窒素固定菌と呼ばれる菌群や光合成細菌がこれにあたります。一方, それらの高分子化合物を自らは合成せずに, 必要な主要炭素源として有機物しか利用できないものを従属栄養菌と分類しています。医学関連の細菌はほぼすべてこの区分に含まれます。

 さて、質問者は「従属栄養菌であるMRSAがなぜ体内から排出されてからも生きているのでしょうか???」との疑問をお持ちですが, これに関しましてはもうひとつ理解していただきたいことがあります。それは, 従属栄養菌という分類の中にさらに「偏性寄生性菌」という分類があるということです。推測ですが, 質問者はこの偏性寄生性菌と従属栄養菌を混同されていないでしょうか??? 偏性寄生性菌としてリケッチアやクラミジアが知られていますが, これらは細胞機能が不完全であり, 必ず生きた真核細胞中でしか増殖できません。話を元に戻しますと, MRSAを含む一般の細菌は生体の内外を問わず, その代謝に必要な栄養源が自らの菌体周囲に存在し, 温度・その他の種々の条件が整ってさえいれば, 増殖あるいは生存が可能です。従って「体外排出=即死滅」という考えが成り立たないことをご理解いただけると思います。

 もうひとつ,「排出されてからは, MRSAはどの程度の期間生き続けるのですか???」とのご質問ですが, 我々が実験によって確認したささやかなデ−タの概略をお示ししましょう。複数のMRSA菌株を用いて作成したそれぞれの菌液について, それぞれ滅菌シャ−レの区画へ滴下しました。フランキ内で完全乾燥を確認後に室温放置して, 定期的に乾燥MRSAの生死を培養によって確認しました。MRSA以外の種々の菌種や菌株についても実験しましたが, その中でもMRSAは特に乾燥に強く, 40日を越えても供試菌株のすべてが生存していました。

 さらに,「MRSAが生きていないことには感染力はないですよね???」とのご質問ですが, 常識的にお考え頂いて差し支えありません。つまり, 例えば化膿性疾患を引き起こすような, いわゆる感染症を惹起することはあり得ません。でもMRSAはブドウ球菌ですから, 代謝産物として“エンテロトキシン”を産生し, そのエンテロトキシンが食品(食材)中に存在していれば, その食品(食材)を加熱して「MRSAが生きていない状態」を作り出しても, ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンは耐熱性ですから毒素の不活化は期待できず「食中毒(毒素型)」の原因にはなり得ますね。

学生の方ということですが, 前向きな学習意欲を頼もしく思います。今後も納得のいかないことに遭遇した時は, 思い込みにとらわれることなく, 教科書などで理解したことを丁寧に整理して問題解決に取り組んでください。

(信州大学・川上 由行)


【質問者からのお礼】
 MRSAに関してご返答ありがとうございました。先生に詳しく回答して頂いて, よく理解できました。特に「MRSAが生きていなければ感染力がないですよね?」という質問に対して, エンテロトキシンのことまで教えて頂いて, すごく勉強になりました。お礼のメールを早くに差し上げるべだったのですが, 先月から実習へ行っており, 大学のメールを見ることが出来ず, こんなにも遅くなってしまいました。詳しい回答を頂いておきながら, 申し訳ございません。先生が言われたように問題解決をしながら, 学習に取り組んでいこうと思います。本当にありがとうございました。


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