03/05/08
■ “MRSE”の保菌者と言われた妊婦さん
【質問】
 現在妊娠37週なのですが, 先日の検診で尿からMRSEが検出されたと言われました。担当医は「心配ない。産後は個室に入ってもらうけど, 子供には影響ないから」と言われましたが, 私は心配でなりません。

MRSA感染扱いとではどのように異なるのでしょうか??? MRSAのようにガウンテクニックなどされるのでしょうか??? 沐浴なども, 一人でしなければならなく, 一番最後にされるのでしょうか??? 私はずっとMRSEの保菌者扱いになるのでしょうか??? 子供には感染しないのでしょうか??? 自然に消滅することはありますか??? 担当医は治療はしないとのことでしたが, それでいいのでしょうか??? 治療しなければずっとMRSEの保菌者と言うことになりませんか??? 感染経路はやはり病院で感染したのでしょうか??? 33週まで働いていました。不妊治療もしていて, しばらくプレドニンを服用していたのでそのことで易感染状態にあったのでしょうか??? 病院での感染扱いでのMRSAとMRSEの違いについて教えてください。私は全身状態はいたって健康です。よろしく回答お願いします。

【回答】
 以前看護師を職業としておられたとのことですので, その職場でいろんな経験をしてこられたと思います。しかし, ご自分のこととなると客観的に見られないのが心情でしょう。以下, ご質問に対し概説致しますが, 看護師と言う臨床に関係する知識人として十分理解していただけるものと信じます。

(1) ブドウ球菌について
 学名をStaphylococcusと言い, この中には30以上の種類 (菌種) が含まれます。その中の代表がStaphylococcus aureus (黄色ブドウ球菌) であり, Staphylococcus epidermidis (表皮ブドウ球菌) です。ふたつの菌種, いずれも自然界に広く分布し, 人の体内外にも常在します。ただし, 黄色ブドウ球菌は人によって持っている人と持っていない人に分かれ, 持っている人でもどこに常在しているかはまちまちです。そして健康な状態では発症 (発病) することはありませんが, 体内での大量増殖, 外傷, 医療行為など, 何らかの二次的要因によって発症します。これに対して表皮ブドウ球菌は, ほとんどの人の皮膚, 口腔, 鼻腔, 咽頭, 耳道, 眼, 尿道, 外陰部, 膣などに常在することが知られています。ですから, 人と共に生存し, 日頃はまったくの無害菌です。病原性を発揮するとしたら, 免疫不全状態で血液や髄液中に菌が移行し, 増殖した場合や, IVHなどを長期に挿入した患者の刺入部炎症など, 特別な場合に限り発症します。

(2) ブドウ球菌の病原因子
 黄色ブドウ球菌は溶血毒, エンテロトキシン, 皮膚剥離毒, 血漿凝固酵素, 白血球破壊毒などの強い毒性を持ち, 化膿性疾患, 食中毒, あらゆる感染症を起こすことが知られています。これに対し表皮ブドウ球菌は病原性毒素が少なく, あっても問題にならないくらいの種類と産生量です。

(3) 抗菌薬耐性ブドウ球菌
 先に述べた病原性とはまったく“別問題”として評価されるのが「抗菌薬耐性」の問題です。黄色ブドウ球菌はいろんな型の耐性菌が紹介されていますが, 中でも有名なのがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) であり, ペニシリン系, セフェム系抗菌薬など, 数多くの薬剤が無効な菌株です。このMRSAは“病原性とは別に”, 単純に有効薬剤が少ないとして問題視されたきた訳です。同様にメチシリン耐性表皮ブドウ球菌はMethicillin-resistant Staphylococcus epidermidisであり, MRSEと略して呼んでいます。

(4) ご質問について
A. MRSA感染扱いとではどのように異なるのでしょうか??? MRSAのようにガウンテクニックなどされるのでしょうか???
 尿路からだけ出ているMRSAの場合は飛散する可能性が低いことから, 特別な隔離管理はしないのが現状です。尿の処理, 局部の処置の時, 手袋をするなど, 他への汚染に気をつけるだけでガウンテクニックもいらないと思います。MRSAでさえそうですから, MRSEについてはさらに特別な対処はいらないと思います。

B. 子供には感染しないのでしょうか??? 沐浴なども, 一人でしなければならなく, 最後にされるのでしょうか???
 生まれたベビーを心配されているのだと思いますが, 100%感染しないとはいえませんが, お産時には膣の常在菌はもちろん, 肛門からの汚染も避けられない状態になりますので, 尿からの汚染のみを問題視することは論外です。また, MRSEは多くのベビーに付着しますし, それが感染症になる確率は非常に少なく, 考えなくて良いと思います。新生児の管理上, 医師が良好と判断した場合は特別な措置はしませんので, 主治医にお任せしてはいかがでしょうか。

C. 私はずっとMRSEの保菌者扱いになるのでしょうか??? 担当医は治療しないとのことでしたが, それでいいのでしょうか???
 あなたの場合, MRSEがどのくらいの量, 何日間出ているかわかりませんので的確には答えられませんが, 担当医が治療しないと判断した訳ですから, おそらく量も少なく, 一時的な常在菌の混入程度ではないでしょうか。感染症扱いでないかぎり, 尿道にいつでも存在し, いつでも消える菌であると認識して良いと思いますし, 気になるのであれば, トイレの後を良く洗浄する程度で良いと考えます。

D. 自然に消滅することはありますか??? 治療しなければずっとMRSEの保菌者と言うことになりませんか???
 自然消滅は普通にあります。また消滅しなくても大丈夫です。このMRSEを無理やり血管から入れない限り, IVH部分から入れない限り, 病気になることはありません。治療については感染症状が明確に現れて, 主治医が治療が必要と判断した時点で十分間に合いますし, それ以外の除菌は必要ないでしょう。

E. 感染経路はやはり病院で感染したのでしょうか??? 33週まで働き, 不妊治療もし, しばらくプレドニンを服用していたので易感染状態にあったのでしょうか???
 MRSEに限らずどんな感染症でも, その経路を特定することは困難です。中でも人類全員が保有している表皮ブドウ球菌ですから感染経路を考えるのはナンセンスです。また妊娠状態での業務, 不妊治療や薬物療法と感染の因果関係についても特定できないと思います。

現在受診し, 指導を受けている担当医を信じ, 相談してください。
二世誕生をお祈り致します。

(大手前病院・山中喜代治)

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