04/05/06
■ ムコイド型菌株について教えて下さい
【質問】
 ○×県の臨床検査センターに勤務する者です。ムコイド型菌株について教えて下さい。

(1) NAC培地で弱く発育はするものの, 色素を呈しない“みずあめ状ムコイド型菌”をVITEKにて同定すると P. fluorescens などの P. aeruginosa 以外のPseudomonas属に同定されます。これらの P. aeruginosa 以外のPseudomonas属でも“みずあめ状のムコイド型コロニー”を呈することがあるのでしょうか??? また, みずあめ状のムコイド型コロニーで黒茶色色素を呈する菌も同様の結果になります。これらをすべてムコイド型緑膿菌と考えてよいものなのか, P. aeruginosa 以外のPseudomonas属のムコイド型と表現すべきなのか悩んでおります。もし P. aeruginosa 以外のPseudomonas属のムコイド型だとすると, ムコイド型緑膿菌のように, 生体内と試験管内とでは薬剤効果に差があるのでしょうか??? (ムコイド型であることを臨床に報告したほうがいいのでしょうか???)。またNAC培地以外でムコイド型緑膿菌を同定できる方法はありますか???

(2) E. coli でも, まるで K. pneumoniae かのようにムコイド型を呈するものをよく分離します、感受性はほとんどの薬剤において「S」なのですが, ムコイド型緑膿菌のように生体内と試験管内とでは薬剤効果に差があるのでしょうか??? (ムコイド型であることを臨床に報告したほうがいいのでしょうか???)

(3) S. pneumoniae について S. pneumoniae(PRSP) といった報告方法をとっていますが, ムコイド型であった場合, ムコイド型であることを臨床に報告したほうがいいのでしょうか???

 以上, ムコイド型についてご回答よろしくお願い致します。

【回答】
(1) NAC寒天培地にはPseudomonas aeruginosa以外のPseudomonas属の菌種も発育しますが,“水飴状のムコイド型”集落を形成する菌種であれば,第一に推定されるのはP. aeruginosaです。まったく例外がないということは言えませんが,P. aeruginosaはブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の中では感染性の材料から分離される頻度が最も高く,まずP. aeruginosaか否かを確認することが重要だと思います。ご質問にありますVITEKのような全自動検査機器の場合には,あらかじめ反応時間が設定されているため,ムコイド型P. aeruginosaのように発育の遅い菌株の場合には十分な反応が得られず,間違った菌種に同定されてしまうこともありますので,用手法による鑑別が薦められます。42℃での発育(陽性),アセトアミド培地でのアシルアミダーゼ試験(陽性),ゼラチン液化試験(陽性)およびキングAB培地での色素産生性(ムコイド株は色素産生が遅い)などがありますが,1日で陽性反応が認められない場合には2日まで観察する必要があります。また黒茶色の集落を形成する菌株ですが,おそらく褐色のピオメラニンという色素を産生したものと考えられます。この色素はP. aeruginosaの中でも特にムコイド型の菌株でよく認められますので,P. aeruginosaである可能性は高いと思われます。またP. aeruginosa以外のPseudomonas属のムコイド株でもin vivo とin vitro での薬剤効果に差があるかという質問ですが,生体内でバイオフィルムを形成しやすいという点ではP. aeruginosaと同様だと思いますので,ムコイド型であるというコメントを付記した方が良いと思います。

(2) Escherichia coliのムコイド株はご質問のようにKlebsiella pneumoniaeのような集落を形成し,染色で厚い莢膜様のものが認められることがあります。莢膜は病原性の強さにも関連しているといわれますので,in vivo とin vitroの薬剤効果の差の問題も含めて,ムコイド型であることは臨床に伝えるべきだと思います。

(3) Streptococcus pneumoniaeのムコイド型株の多くは血清型の3型とされ,特に病原性の強い菌といわれています。肺炎や中耳炎から膿胸,敗血症,髄膜炎などの重症感染症に進行することもありますので,迅速にムコイド型であることを報告すべき菌種であると思います。

(玉名中央病院・永田 邦昭)


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