03/04/25
■ムンプスEIA抗体が陽性でも自然感染した!!??
【質問】
 ここにご質問していいものやらわかりませんが, いろいろ調べてもわからず, 参考文献なりとお教えいただければ幸いです。

一昨年, 当センターの利用者のうち抗体が低値で希望される方に麻疹, 風疹, 水痘, ムンプスの予防接種を行うつもりで抗体検査を行い, 予防接種を開始しようというときになって一病棟でムンプスが流行し, 最終的に7名が罹患しました。ところが, この7名のうち5名はムンプス抗体価EIA-IgG値が一応陽性の3.5〜8でした。この陽性値が必ずしも“感染防御”を意味しているわけではないことは専門家から聞いてある程度納得しましたが, いったいどういう根拠で3.5以上が「陽性」とされたのか検査会社に問い合わせたり, MedLineなどを調べたりしましたがよくわかりません。EIA-IgGの基準値決定の根拠となる文献なりとお教え願えれば幸いです。

【回答】
御質問にはいくつかの難しい問題を含んでいます。まず; 

(1) 中和試験 (neutralization test) 以外に, ムンプスウイルスの免疫状態 (将来, 自然感染するか否か, ワクチン接種の必要があるか否か) を決定できる試験方法はありません。しかし, 中和試験は非常に煩雑であり, その結果, EIA法が (安易に) 代用法として広く使われています。では, EIA法がどの程度意味をもつかというと;

(2) 単一の血清 (single serum) での検査では, その方が将来自然感染するか否か, ワクチン接種する必要があるか否かを決定することは“まずできない”と考えてください。これはEIA法だけではなく, 赤血球凝集抑制試験 (HI法) でも同じです。ムンプスウイルスのHI法は専ら患者が“ムンプスでない”という否定診断に重きがおかれます。このあたりが単一血清, あるいはペア血清でのムンプス血清診断の限界です。では, いかにしてEIA法で陽性・陰性の区分値 (質問の3.5) を決めているかということですが;

(3) 他の既存の方法 (中和試験が最も望ましい) で「陽性」と判定された“血清検体の群”と「陰性」に判定された“血清検体の群”を多数試験し, EIA法で得られたシグナルの強さ (発色, 蛍光, 発光など) の分布をそれぞれの“群”で描き, 両者の判定が最も高い頻度で一致するシグナル強度を判定区分値として求めます。このように「判定区分値」は単なる統計的手法から求められたものであり, 偽陽性, 偽陰性の発生が避けられないことになります。加えて, 試験に用いたムンプス抗原が他のウイルス (特にパラインフルエンザウイルス) と交叉反応する, 自然感染で獲得した抗体とワクチンで獲得した抗体の反応性が異なるといった問題も含んでいます。

(琉球大学・山根 誠久)

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