03/04/28
■ それでも疑問が残ります・・・ムンプスEIA抗体 (その2)
【質問】
 お忙しい中, わかりやすく丁寧にご教示くださり, ありがとうございます。いろいろ疑問が氷解しました。ただ, 以下の点がどうしても疑問として残ります。お教えいただければ幸いです。

(1) NT (中和試験) がワクチン接種可否を決定する唯一の方法だということはよくわかりました。しかし, NTでは偽陰性が多いと聞いています。たとえば, ムンプスワクチンはNTを指標とすると有効性がなかなか証明出来ず, このため実用化が遅れ, EIAによってようやくその有効性がフィールドワークのレベルで証明されたとどこかで読んだ記憶があります。これはNTそのものに問題があるのでしょうか, それとも個々のフィールドワークにおける検査法に問題があったのでしょうか。実際的な問題として, うちのような療養型施設でムンプス流行予防のためにワクチン接種を計画する場合, どのような検査をすればいいのでしょうか??? 理論的根拠がないにしても, 私の知っている限り, 院内感染対策などではEIA IgGが用いられているのがほとんどだろうと思います。結局, 今のところ, ワクチン可否を判断する決定的な検査法 (もしくは検査法の組み合わせ) はないということでしょうか??? 元々ワクチンの有効率自体も100%ではないので, 絶対に罹患予防ができるわけではないことはある程度予測して (あるいは, そのように説明して) 施行しているということなのでしょうか???「(安易に) 代用法として広く使われている」ということは, そうした自覚もなしに使われているということでしょうか???

(2) EIAの基準値が実態を反映する方法ではなく統計学的に決定されたものであるにしても, たとえばNTを対象に基準値を設定したとすれば, 「陽性者」の半数以上が罹患した私たちの経験は異常な気がします。こんなものなのでしょうか。ちなみに, あとからパラインフルエンザ抗体と抗DNA抗体は検査し, “陰性”でした (EIAを測定する場合, ルーティン検査としてこうした検査は加えるべきなのでしょうか???)。そういった疑問から, 基準値決定の根拠となる文献を検査会社に求めたのですが, 曖昧な答えしか返ってきませんでした。どこかに文献があってもいいような気がするのですが, やはりないのでしょうか???

【回答】
(1) 中和試験 (NT) は原理的に感度の悪い試験方法です。そのため“偽陰性”の発生は避けられません。ではこの場合, “偽陰性”と“偽陽性”, どちらの誤りが問題になりますか??? “偽陰性”では, しなくてもよいワクチンを接種してしまった・・・他方“偽陽性”は, した方がよいワクチンを接種する機会を失って, 自然感染してしまった・・・どちらの誤りが重大なのかという判断です。私は, “偽陰性”は大きな問題ではなく, “偽陽性”こそ発生してはならない誤りだと判断するので, 敢えて, 感度の劣る中和試験が最も信頼できる方法だと判断しています。実際, 感度の劣る中和試験で陰性に判定される方(偽陰性) のなかには, 既に自然感染を経験された方も含まれてきますから, 理論的にもワチクンの有効率は悪くなります(take率が悪い)。では実際, どのようなワクチン前の検査が有効なのかという質問ですが・・・ワクチン接種前に検査する目的は, “経済的理由から, ワクチン接種の必要のない方を除く”ということです。どの程度のヒトを除くのかという点がキー・ポイント (cost-benefit) になります。私に経済的余裕があれば, EIA-IgGで陽性域にあるヒトでも低い値にある方にはワクチン接種すると思います。低い, 高いという簡単に実施できる試験としてEIA-IgGがあります。しかし, どんな方法でも偽陽性, 偽陰性が避けられないという限界もあります。まして将来自然感染するか否かという指標で評価する訳ですから。

(2) 判断するために必要な資料の入手ですが・・・すべての検査試薬について, 販売するからには厚生労働省の認可が必要です。認可には, 必要な資料の提出が求められます。そのなかには, 当然のことながら「性能試験」の結果も含まれます。使用された試薬キットについて, 認可作業の過程で提出された資料の提供あるいし開示を求められるのが一番確実と考えます。資料内容のあまりの乏しさに愕然とされる筈です (FDA: 米国食品医薬品局の認可資料と比べて)。

 EIAでの測定で, パラインフルエンザ抗体と抗DNA抗体もルーティン検査として加えるべきなのかという質問ですが, 通常は必要ありません。なにか特異な, 理解できない結果 (今回のような事例) が得られた場合, それぞれの興味と探究心の程度で検査する, 検査しないと理解されては如何でしょうか。

(琉球大学・山根 誠久)

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