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【質問】結核菌検査指針が改訂され, 前処理液としてNALCが良いといわれていますがどのように良いのか,
よく分かりません。また, なぜMGIT法のときにつかうと良いのですか?あと, NALC-NaOH液の作用機序などもできれば教えていただけないでしょうか。
【回答】NALC (N-acetyl-L-cysteine) は一種の還元剤で, 0.5〜2.0%濃度に加えると,
粘稠な喀痰に多量に含まれるS-S結合を還元して ミSH HS-に解離させます。その結果,
喀痰の粘稠性が失われ, サラサラとした喀痰になります。NALC そのものには喀痰に混在する一般細菌を殺菌する効果はありません。しかしNALC処理によって粘稠性が失われた喀痰に含まれる一般細菌は,
より低い濃度のNaOH (最終1%) で充分殺菌されるようになります。従って, NALCを用いる目的は,
一般細菌の殺菌に必要なNaOH濃度をできるだけ低くすることにあります。いわば,
喀痰の核にまでNaOHを浸潤させる役目です。同じ目的で, より強い還元剤, dithiothreitol
も用いられますが, 高価です。
NALC-NaOH 法は, MGITの培養のみに限定して使用するものではありません。小川培地で代表される卵培地,
Middlebrook 7H9 brothを用いた他の培養法, Middlebrook 7H10 寒天培地など,
喀痰からの抗酸菌培養にあたってはすべての培地, 培養方法に共通して使用できます。
NALC-NaOH 法で用いる試薬は, (1) NALC―還元剤 (喀痰融解のため), (2)
NaOH―殺菌剤 (抗酸菌以外の雑菌の殺菌), (3) クエン酸ナトリウム―一種のキレート剤
(喀痰に含まれる重金属イオンを除き, NALCの作用を保護する) の3つの成分から成ります。
NALC-NaOH法は1963年という比較的古い時代に発表されました。その頃には緑膿菌,
ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌, 酵母真菌といった菌種はほとんど問題となりませんでした。その後,
これらの菌種が喀痰, 特に長期療養の患者に由来する喀痰に高い頻度で混在するようになり,
NALC-NaOHではなかなか雑菌の混入発育が阻止できなくなってきました。そこで,
検査施設や検体によっては, semi-alkaline protease (喀痰の蛋白成分を酵素で分解する)
の併用, NaOH (アルカリ処理)ではなくcetylpyridium chloride, oxalic acid,
trisodium phosphate, benzalkonium chloride といったNALCとは異なる前処理法も工夫されています。
(琉球大学・山根 誠久)
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