02/06/11
■ 尿中白血球と細菌が陽性・・・でも培養結果は陰性
【質問】
 いつも教えていただいてありがとうございます。感染症は特に知識がないので助かっています。
発熱を主訴に来院された70歳女性の尿沈査で, WBC 50個程度, 細菌 (2+)で培養にだしたところ, 「培養陰性」で結果が返ってきました。通常の尿検体の培養で生えないが尿路感染症の原因となりうる菌というのはどのような菌がありますか??? それとも培養にだすまでの時間がかかりすぎたなどのテクニック上の問題が考えられるでしょうか???

【回答】
 この質問で不明な点は (1) 何科にどんな目的で受診されたのか, (2) 発熱主訴からどんな疾患を疑ったのか, (3) 基礎疾患の有無, (4) 既往歴, (5) 治療歴 (特に来院直前の抗菌剤投与の有無), (6) 採尿方法, 検査までの経過時間, (6) 沈渣で用いた同じ尿を細菌検査に用いたのか, あるいは再度採尿させたのか・・・などの背景です。細菌検査にあたっては, このような患者情報はとても大切であり, 検査方針の選択や検査結果の判断に役立てております。
さて, この患者さんの尿沈渣成績 (多数の白血球と細菌陽性) から推察しますと, 尿路感染症が十分うかがえますし, 細菌検査依頼も妥当な判断だと思います。細菌検査の報告が『培養陰性』となっていますが, グラム染色所見が記載されていないので判断しにくいところです。以下, 培養陰性が考えられる代表的条件を挙げてみました。

1. 死菌の場合
既に抗菌剤による治療を受けている (または治療中の場合) は, 塗抹検査で菌体と共に古い炎症細胞が認められるものの, 培養では生きた細胞を検出できないことがあります。このような場合の菌体はフイラメント状に伸びるなど, 形状変化した細胞が鏡検で確認できます。また, まれにではありますが抗菌剤を使ってなくとも免疫力で殺菌し, 死菌が鏡検所見で観察されることもありますし, 菌種によって輸送中 (保管状態により) に死滅することも考えられます。

2. 特殊な細菌の場合
外来患者における単純性膀胱炎など, 一般的尿路感染症原因菌の約80%がEscherichia coliまたは近縁のグラム陰性桿菌であり, 次いでStaphylococcusEnterococcusなどが知られています。そこで特に指示のない場合の尿培養では, これらの細菌を目的とした検査が行われます。故に, 慢性複雑性尿路感染症や性感染症などの原因菌のうち, 培養条件を考慮すべき特殊な細菌は発育してこないことになります。ですから, このような細菌の検出には依頼者の指示 (目的菌など) が必須となります。例えば (1) HaemophilusNeisseriagonorrhoeaeはチョコレート寒天培地を用い, 炭酸ガス培養が必要, (2) Mycobacteriumは抗酸菌用培地で長期培養が必要, (3) Bacteroidesなどの嫌気性菌は遊離酸素を除いた培養が必要であり, 一部のStreptococcusや非発酵グラム陰性桿菌であっても極端に発育の悪い細菌もみられます。よって検査に際しては患者情報を吟味し, 依頼者の指示を守ることとともに塗抹検査所見に応じて検査法を工夫することが大切であります。

3. 保管条件
一般的膀胱炎の診断には定量培養検査成績を参考にすることから, 採取後なるべく早期に検査するか, 採取直後の状態を保つための冷蔵保管が必要です。特にHaemophilusNisseria, 一部のStreptococcusでは採取後なるべく早めの検査施行が大切ですが, Neisseria gonorrhoeaeは冷蔵保管で死滅します。故に, 目的とする細菌の種類に応じた保管法を守ることが大切です。

4. その他
絶対ないとは言えないのが, 検体間違い (依頼側, 検査側共に起こりえる問題) や検査室の精度管理不足 (使用培地, 機器類など) が挙げられますが, これは論外として考えたいですね。

(大手前病院・山中喜代治)

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