04/05/31
■ 乳酸菌の定量について
【質問】
 私は食品会社の品質管理部で細菌検査を担当していますが, 食品検査で乳酸菌数の測定方法と判定の仕方を教えて下さい。

今, 私のところでは食品 1 gramに滅菌リン酸緩衝液 9 mlで10倍希釈液を作り, 培地はBCP加プレートカウント寒天で嫌気的に35±1℃, 72±3時間培養した後, 周囲を黄変したコロニーを推定陽性とし, 確定試験 (カタラーゼ試験) が陰性のものを“乳酸菌と判定”しているのですが, BCP加プレートカウント寒天は全体的に黄変していることが多く, どのコロニーを乳酸菌と判定すればよいのかよく分かりません。(1) コロニーの特徴を詳しく教えていただきたいのと, (2) なぜ嫌気的培養をするのか, その意味を教えてください。

【回答】
 質問のなかの“BCP加プレートカウウント寒天”の培地組成がわかりません。どこの製品なのか書いておいていただくとすぐお返事ができるのですが, これからはそのようにお願いします。

 小生の経験からお返事できることは, (1) BCPのようなpH指示薬は, 嫌気培養すると脱色 (白色化) します。また, (2) 嫌気培養には二酸化炭素が使われていて, キットによりその濃度は5%から20%の範囲にあります。二酸化炭素の濃度が高いと培地のpHが酸性に傾きます。従って, この培地を嫌気培養すると,糖からの乳酸産生による集落周囲のpH指示薬BCPの色調の変化, 二酸化炭素による培地全体のpHの低下によるBCPの色調の変化, さらには還元反応によるBCP色素の脱色などの影響が複雑に重なって, 判定がしずらくなっている可能性が予想できます。従って, その対策としては, (1) 二酸化炭素の分圧が低い嫌気培養を選ぶ, (2) 嫌気培養した平板を空気中に出した後, 集落の上に適当な濃度のBCP液を滴下して, 色調を再検査してみるといった方法をとると, その菌が真に酸を産生しているのか, 二酸化炭素の影響なのか, 色素の脱色なのかを区別できるでしょう。

 乳酸菌は一般に, 好気的に培養するよりは嫌気的に培養する方が発育良好なので, 嫌気培養されているのでしょうが, BCPなどの色素に対する反応をみたい場合には, 二酸化炭素の少ない, あるいはまったくない嫌気環境を用いてやってみることも必要でしょう。また乳酸菌は, ほとんどが好気的にも発育する菌ですので, 培養時間を延長すれば (3日間培養なら) 好気的な培養でも発育しますから, 好気培養を併用しておいて, 嫌気培養したものと比較して判定することは有用でしょう。

乳酸菌は糖を利用して乳酸を主要に産生するグラム陽性のストレートな, あるいは比較的ストレートな桿菌です。カタラーゼ陽性を指標としていますね。おおまかにはそれでよいのではないでしょうか。さらに詳しく勉強したいなら, 乳酸菌の集落やグラム染色所見は「腸内細菌の世界」(光岡知足著, 叢文社出版)などを参照して下さい。

(岐阜大学・渡邉 邦友)


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