■ ピオクタニンと褥瘡への効果について
【質問】潰瘍部, 褥瘡部にピオクタニンが有効であるとの話を聞きましたが, その効果と文献について教えて下さい。
 

【回答】
1. ピオクタニンとは
ピオクタニンは, 化学名: 塩化メチルロザニリンという合成化合物で, 一般的にはクリスタルバイオレットという色素として知られています。本品は1860年頃に合成され, 1890年にStillingによって治療に用いられました。その用途は, 糞線虫や蟯虫の抗原虫薬として1930〜1940年頃に用いられたこともありますが, その後は主に殺菌消毒剤として使用されています。この他に1%アクリフラビンや1%ブリリアントグリーンなどの色素も1935〜1950年頃に消毒剤として用いられていましたが, 抗菌剤が開発された近年はほとんど使用されなくなりました。細菌検査室でグラム染色に使用されている色素もクリスタルバイオレットです。
(主な薬効)   グラム陽性球菌(特にブドウ球菌), ジフテリア菌,緑膿菌, 酵母, 皮膚糸状菌に対して有効とされています。一方, 緑膿菌以外のグラム陰性桿菌, 結核菌に対しては無効とされています。

2. ピオクタニンの効果について  
 寒天培地上に増殖させたMRSAを用いて菌液を作製し, 終末濃度が0.1%と1.0%の濃度のクリスタルバイオレットを作用させ, 実際に実験してみました。その結果, 両濃度共に殺菌効果が得られることより消毒効果は認められます。ただし, 臨床効果を考慮した場合, 褥瘡表層部の菌に対しては有効と思われますが, 色素の移行性から推察して褥瘡の組織内深部に感染しているMRSAに対しては無効または時間を要すると思われます。また一般的に, 血液や滲出液を大量に含んだ条件下の菌に対しては, いずれの消毒剤もその効果が低下します。またアクリフラビンは結核菌以外の雑菌を殺す目的で現在も使用している検査室もあります。

3. 使用方法
潰瘍部, 褥瘡部に粘着性痂皮が形成されるまで下記のいずれかを使用する。  皮膚消毒: 0.1〜1.0%液 2〜3回/日; 噴霧: 2%液 2〜3回/日; 軟膏: 2〜10% 1〜2回/日
(注意)
(1) 本剤により稀に組織壊死を生ずることがあるため注意を要する。  
(2) グラム陰性桿菌に効果がないとされていることより, 対象菌種および使用期間を限定して使用する。  
(3) 組織内深部感染が明らかな場合は, 外科的な処置を重要視すべきと考えます。
(調剤) 薬剤部に特殊無菌調剤として依頼すれば調剤可能です。

4. 文献について: 古い文献しか検索されませんでした。
(殺菌効果について)
・ Churchman JW : J. Exp. Med. 33, 569 , 1921
・ Sutton RL Jr: Am. Med. Assoc. 110, 1733 , 1938
(壊死について)
・ Sommer G, Happle R: Hautarzt 28(2), 92-93, 1977

5. イソジンの無効な褥瘡部や胃瘻部の処置
大量の浸出液を伴う褥瘡・胃瘻部の消毒にイソジンはほとんど無効です。このような場合, 下記に準じてミノサイクリン軟膏を使用してみて下さい。このメニューは, 当院にて私が10年以上実施しており有効性は確認されています。
1. 乾燥した部分 → イソジン消毒 1〜2回/day  
2. 湿潤した部分 → ミノサイクリン軟膏(2 mg/1 g白色ワセリン)  (1〜2回/day)

(注意)
◎ イソジンは, 体液成分と混じると不活性化されやすいため, 湿潤した部分にはMINOを用いる。→ MRSAが原因の場合は, 翌日その効果が肉眼で確認できることが多いです。  
◎ アイロタイシンやゲンタシン軟膏などもMRSA感染の褥瘡には一般的に無効です。この軟膏を使用中に培養検査でブドウ球菌が検出されたら多くの場合MRSAまたはMRSEです。  
◎ ミノサイクリン軟膏を使用する場合, 薬剤感受性結果で耐性と判定されても使用可能です。これは, 現在の感受性判定は, 各薬剤の血中移行濃度に基づき判定しているためです。(EMとGMは高濃度でも効きません。)  
◎ 褥瘡のMRSA感染が明らかで, さらにポケットを形成している場合等は軟膏塗布だけでは治療は困難で基本的にデブリが必要です。

(大阪大学・浅利 誠志)

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