03/09/22
03/09/25
■ Q熱の血清学的検査法について
【質問】
 Q熱に関して, 小生多少医学的関心を持っている者ですが, 最近週刊誌などでQ熱の脅威と題してセンセーションナルな記事を見て, 実際に「たまご及びその加工品」から人間に感染するならば, 大変なことになると思っております。発表している研究所での検査方法はメエライザ法モとしており, 鶏の血液検査でもメ陽性率はかなり高いモとしておりますが, 他方某検査センターでの鶏の血液検査では「すべて陰性」と報告されております。某検査センターでの検査法はメIFA法モとしております。材料の取り方, 季節・・検査手法・・と色々条件により差はあるかと思いますが, IFA法とエライザ法はいずれも血清学的検査法であると思いますが, そんなに差はないと思いますが, あまりにも違いがありすぎるように感じます。両方法の精度の差はあるのでしょうか??? またどちらが精度が高いと判断したら良いのでしょうか???

【回答】
 ヒトにおけるQ熱病原体Coxiella burnetiiに対する抗体価測定方法は, 間接蛍光抗体法 (IFA) を用いて, Coxiella II相菌に対するIgGおよびIgM抗体価を測定し, 4倍以上の有意の抗体上昇を見ることが基本になります。IFAではなく, ELISAや補体結合反応 (CF) も用いられます。IgG抗体価の上昇は, 1〜数ヵ月後に初めて上昇する例もあり, 長期間かかること, また高値のまま長期間持続することが多いが報告されています。
また, 「感染と抗菌薬」Vol. 6 No. 1 112〜113では, ヒトの血清抗体価測定について次のことが記載されています。

(1) IF血清抗体価は低い傾向にあるが, 低抗体価ながらもその臨床症状からQ熱を疑い, 抗菌薬の投与が行われ, 症状が回復した例も少なくない。

(2) IFAは感度特異性に関して問題はないが, その判定が主観的評価で行われ, 判定者によって違いが出ることもあるため, 標準血清を各施設間で統一する必要がある。さらに, Legionell pneumophilia, Bartonella henselae, B. quintana との間に交差反応が認められることが報告されており, 特に低い抗体価についてはその可能性を含めて診断する必要性もある。

(3) ELISAのヒト診断用キットの検討では, 日本でのIFAが低い抗体価例についての使用には向かないことが示唆された。

 保菌動物として, ウシ・ヒツジなどの家畜, イヌ・ネコなどのペット, クマ・シカ・サルなどの野生動物, ハト・カラスなどの鳥類が報告されています。これらの動物自体はほとんど無症候です。ヒトへの感染は, これら保菌動物由来の排泄物・分泌物などに混在する菌を経気道的に吸入することによっておこります。動物からの排菌は長期間持続し, かつ菌を含む排泄物・分泌物が乾燥して生じるエアロゾルは風によって広範囲に広がり, 感染が起こることも知られています。しかしヒトからヒトへの感染はまれです。
 さて, ご質問のIFAとELISAの検出感度の問題ですが, 基本的には大差がないと思われます。IFAは蛍光顕微鏡で確認する方法, ELISAは発色を測定装置で検出する方法です。蛍光を発していることを視覚的に確認する方法と, 数値で確認する方法と違いがありますが, 他の病原体に対する検出感度を見る限り大差はないものと考えられます。むしろ海外発症例に比べ, 国内発症例は抗体価の上昇が低いことから, Coxiella burnetiiの抗原性がやや異なることがいわれています。これから考えると, 抗原に使用したCoxiella burnetii の菌株の違い, 処理方法の違いなのかもしれません。いずれにしても, ヒトにおける臨床例の蓄積が始まったばかりであり, 保菌動物に対する最適な検査方法の選定はこれからではないでしょうか

(研究会名誉会員・中村 良子)

【質問者からのお礼】
 たいへんご親切なご回答ありがとうございました。血清抗体検査法はその方法及び条件の違いで差がある事が理解できました。標準化された検査法でないと一般人には理解し難いと思いますね。
 Q熱は一般的にはそんなに重大視されていないようですが, 深く静かに蔓延していくようですので, 無視できないと思っております。
 今後ともご研究にご精進され, 医学の発展の為ご活躍ご期待申し上げます。


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