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【質問】
以前に, 淋菌の感受性試験に関しての質問がありましたが, 同じく淋菌の感受性の質問とNCCLSの判定基準に関してです。よろしくお願いします。
対象菌種: 淋菌 対象薬剤: MINO 検査方法: KBディスク法
“TCディスク“で置き換えて検査実施, 判定をしていますが,「耐性」と報告することがほとんどです。臨床状況,
治療状況と感受性検査結果の乖離があるのでは??? という問合せもあります。淋菌のMINOの感受性検査として最も的確な検査方法をご指導願います。
また, KBディスクでの判定ということで, NCCLSの判定基準に縛られています。実際にわずかな耐性も見落とさないことが目的,
今後, 耐性菌を増やさないようにすることが目的ということも理解できますが,
臨床の医師からの「治療に使う薬がない」「実際の臨床現場では役に立たない」という声を聞くたびに対応に苦慮しています。・・・すべての菌種と薬剤の組み合わせに「暫定基準」を設けて対応するべきなのか???・・・この系列の薬剤に関してはすべてMPIPCで置き換えるなどとなると,
まったく感受性の報告の出来ないものも出てきます。どのようにとらえ, 臨床現場に対応していけばよいのでしょうか???ご指導をお願いします。
【回答】
まず前半の質問ですが, 淋菌に対して日本性感染症学会のSTD治療ガイドライン
(表) によれば,minocylineは治療選択抗菌薬として挙げられていません。もっとも淋菌に対しての適応はあるのですが,治療薬剤としてはガイドラインに記載されている抗菌薬に較べ,かなり見劣りするようです。したがって,判定基準のないminocylineに固執して感受性検査を実施する必要はないと思います。どうしても感受性検査実施が必要でしたら,MIC測定でないと評価が困難かと思います。minocylineの感受性検査として最も的確な方法に寒天平板希釈法,液体希釈法がありますが,E-TESTによる方法が簡便かと思います。なお,臨床的なブレークポイントは,淋菌に対してminocylineやtetracyclineのデータがまだそろっていませんので,十分な考察はできませんがCraig
W. R.らが提唱するPharmacokinetics/Pharmacodynamicsパラメーターから考えますと,最大血中濃度
(Cmax) がMICの8倍以上または血液中面積下曲線 (AUC) の25倍以上で治療することが適当かと思います。
次に後半の質問は意味がわかりにくいのですが, KB法とNCCLS判定基準全般に関することのように思われます。これをすべて回答するには紙面が足りませんが,
検査室としてNCCLSに準拠した薬剤感受性検査を実施している以上,NCCLSブレークポイントと臨床的ブレークポイントが乖離することはよくあることで,それを補うためにPK/PDパラメーターを用いることが必要かと思います。実際にはエビデンスに基づいた薬剤を適正に使用することを目的とした検査を構築することですから,
時代と共に見直しも必要でしょう。意味ない検査を闇雲にすることは避けるべきでありますが,
重症難治性感染症の場合は保険適用やブレイクポイントの設定の有無に係らず主治医の判断で治療薬の選択が必要だと考えます。そのためには特定菌種
(菌株) と多種薬剤の有効性に関する治験を検査室を含めて検討することが大切であります。ぜひ興味をもって取り組んでいただき,
その成果を提唱してください。
(天理よろづ相談所病院 島川宏一, 小松 方)
日本性感染症学会が推奨する淋菌感染症の治療
日本性感染症学会; 1999
抗菌薬 |
淋菌性尿道炎 |
淋菌性精巣上体炎 |
淋菌性子宮頸管炎 |
淋菌性骨盤内炎症性疾患 |
淋菌性咽頭炎 |
SPCM
筋注 |
2.0 g単回投与 |
0.2 g 1回/日7日間 |
2.0 g単回投与 |
2.0 g 1回/日14日間 |
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AZT
筋注 |
2.0 g単回投与 |
0.2 g 2回/日7日間 |
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2.0 g 2回/日14日間 |
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CFIX
経口 |
100 mg 2回/日3日間 |
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100 mg 2回/日3日間 |
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100 mg 2回/日7日間 |
CTRX
静注 |
0.5 g単回投与 |
1.0 g 1回/日7日間 |
0.5 g単回投与 |
1.0 g 1回/日14日間 |
1.0 g単回投与 |
【質問者より】
ご回答ありがとうございました。
主治医の判断で治療薬の選択が必要・・・まったくその通りだと思います。やはり,
患者, 臨床現場の見えない「センター内の検査」をしているのではないか??? と反省し,
同時に臨床の先生方に臆することなく情報提供し, 意見を求め, 相談できるくらいの知識,
勉強が必要だと痛感しております。
これからも, ご指導をお願いいたします。稚拙な質問, 疑問ですが, これからもよろしくお願いいたします。
【追加質問】
淋菌の薬剤感受性試験についての質問が「質問箱」にありましたが, 天理よろず相談所病院 島川宏一,
小松 方両氏の回答の中にありましたその中の「Craig W. R.らが提唱するPharmacokinetics/Pharmacodynamicsパラメーター」というのが理解できません。申しわけございませんが教えて下さい。宜しく御願いいたします。
【回答】
Pharmacokinetics (PK: 薬物動態学, 薬物速度論, ファーマコキネティクス)
とは, 薬物が体内でどのように時間的に変化するかを説明するもので, 生体内の薬物の量的,
質的な変位, 変換の速度過程を追求し, 薬物濃度および量の時間推移の測定, 記述,
予測および法則性の検討を行うことと定義されています。PKは投与量, 吸収, 分布,
代謝, 排泄のすべてが関わった血中濃度の時間推移を速度論的に説明するものです。一方,
Pharmacodynamics (PD: 薬力学, ファーマコダイナミクス) とは, 作用部位の薬物による直接的な効果をあつかい,
作用部位での薬物量 (濃度) と薬物の薬理効果の関係, すなわち作用部位薬物濃度による生体反応を説明するものです。
従いまして, PK/PDパラメーターとは, 薬物投与後の血中濃度と時間の関係,
作用部位濃度と効果の関係を統合して解析し, 応用する分野で, この手法が確立されて,
科学的根拠に基づいた抗菌薬の薬効や必要用量をより正確に推定することが可能になってきました。最近では,
抗菌薬の開発においては, 従来の一般的な薬効評価方法に加えて, PK/PD解析やPharmacodynamicモデルを活用した総合的な評価が重要とされています。詳しくは,
以下の文献を参照ください。
[参考文献]
緒方宏泰 編著: 臨床薬物動態学―薬物治療の適正化のために―, 丸善株式会社 平成12年
(天理よろづ相談所病院 島川宏一)
【質問者から】
PK/PDパラメーターについて教えて下さいまして,
ありがとうございました。なかなか薬物動態などは難しく, 困っておりました。分かりやすく解説をして下さいましたことを感謝致します。また,
参考文献の紹介もしていただきまして, 早速, 丸善株式会社へ取り寄せをしようと思います。それらの文献等を勉強していきます。御忙しい中,
御答えくださりまして, 有難うございました。
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