03/10/20
■ 細菌検査に関わるふたつの質問 (凝集反応について)
【質問】
 初めて質問させていただきます。総合病院で検査技師をしている者です。ローテーションして細菌検査に携わるようになりました。いくつかわからないことがあるので教えていただけたらと思います。

〔質問 1〕
 大腸菌を同定して, 病原性大腸菌の混合血清で凝集したのに, 単独の血清ではどれにも凝集しないものがあります。こういう場合はどのように解釈したらよいのでしょうか??? また, このような菌の場合でも, ベロ毒素を産生する可能性があるのですか???

〔質問2〕
 溶血性連鎖球菌の凝集反応の検査で, A群に凝集した菌株を分離培養してから純培養し, 凍結保存用のビーズで−20℃で凍結保存しました。その後もう一度解凍して血液平板に培養し, 液体培地で培養してから, 凝集反応をしたところ, A群とB群の両方に凝集しました。C群の菌株も凍結後の菌株でC群とB群の両方に凝集しました。凍結すると何か変化がおきるのでしょうか??? 凍結した温度も関係がありますか???

 以上2つの質問をよろしくお願いいたします。

【回答】
〔質問1〕
 大腸菌菌体(O)抗原を型別する試薬として,病原大腸菌免疫血清「生研」1号セット(デンカ生研)がありますが,この中には混合血清8種類と単味血清43種類が含まれています。ご質問のように混合血清に凝集して単味血清に凝集しない大腸菌は存在します。その理由は主に混合血清の作り方にあると考えられます。混合血清は単に単味血清を混合したものではなく,単味血清とは別に免疫された血清です。例えば混合1の血清ならば,その中に含まれる7種類のO抗原を保有する大腸菌すべてを混ぜ合わせてブタに免疫することによって作製されています。別々に作製した単味血清を混ぜ合わせると希釈されて力価が低下するため,そのような作製方法になっているとのことです。しかし大腸菌の中には複数の抗原を保有するものがあり, 免疫する際に問題となります。例えばO1血清に凝集する菌は主要な抗原としてO1抗原を保有しますが,菌体表面に部分的に別のタイプの抗原をもっていることがあり,免疫すると別のタイプの抗体まで上昇してしまうことがあるそうです。そのため免疫血清1号セットに含まれる43種類の抗体については,作製後に吸収作業を行ってセット内での交差反応が起きないようにチェックされています。しかし大腸菌のO抗原は現在173種類あるとされますので,セットに含まれない残りの130種類の抗体が混合血清に混在している可能性があります。そのような混在する抗体に対応する大腸菌であった場合には,混合血清にのみ凝集して単味血清には凝集しないという現象が起こる可能性があります。またそのような菌でもベロ毒素を産生するかという質問ですが,近年O145あるいはO103といった市販の免疫血清セットには含まれない血清型のベロ毒素産生大腸菌の報告が増加してきていますので,症状しだいでは凝集の有無にかかわらず, ベロ毒素も検査する必要があると思います。生化学的性状検査で正しく大腸菌と同定され,なおかつ混合血清にのみ凝集する場合には, 国立感染症研究所あるいは各都道府県の研究所に相談されれば詳しい血清型が分かるかもしれません。

〔質問2〕
 Lancefield群特異抗原を検査する試薬としては多くの製品がありますが,ラテックスに抗体を感作させた試薬やブドウ球菌のプロテインAに感作させた試薬などがあります。どのような試薬を使用されたかはわかりませんが,いくつかのメーカーに問い合わせてみても、凍結保存後に複数の感作ラテックスに凝集したという報告はないようです。B群の凝集がA群の凝集と比較して同等であったかあるいは弱かったかにもよりますが,弱ければおそらく非特異凝集が起きたものと推測されます。抗原検査に限らず解凍直後の菌株は様々な生物活性が低下したりして,種々の性状試験の成績が正しく得られないことがありますが,抗原性そのものが変化することはないと思います。解凍後非選択培地にて数回継代培養することによってしだいに元の状態に戻ってくると思いますので,継代後に再度検査されることをお勧めします。継代とともに純培養菌であることを確認してそれでもB群に凝集するようなら,前培養の液体培地の種類を変えてみたり(一般的にはTodd-Hewittブロスが使用されることが多い),直接固形培地上の集落をかきとって試験してみてください。集落の前処理には酵素や亜硝酸塩などが用いられますが,製品の使用書の中には前処理することによって交差反応がみられなくなると記載されているものもありますので、一度試してみたらいかがでしょうか。また反応時間が長すぎたり菌量が多すぎても非特異凝集が起きやすくなりますので注意して下さい。

(玉名中央病院・永田 邦昭)

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