03/06/06
■ 細菌の分類で“亜種”とは
【質問】
 いつもこの質問箱を参考にさせていただいております。ありがとうございます。細菌の分類のはなしですが,”亜種”という言葉を聞きました。この,”亜種”とは科⇒属⇒種のその下なのでしょうか。定義を教えてください。何か具体的な細菌を例としてお教えいただければと思います。お忙しいところ恐れ入りますが回答をお願いいたします。

【回答】
 細菌の最小単位は「菌株」であり, 1匹の細胞から分化し原則的に親細胞と同じ遺伝形質を備えた子孫の集団を純粋に養い育て, 保存した状態を言います。菌株には表示 (保存番号や由来の表現などで他の培養物と区別できるもの) が必要であり, 表示のないものは菌株と言いません。この表示は決して菌名ではありません。菌名は菌株個別の表示の前につけるものです。例えば大腸菌(Escherichia coli) は菌名であり, このあとにつけるATCC 25922が菌株表示となります。“ゆえにEscherichia coliを分離した”と言う表現は間違いであり,“分離菌株がEscherichia coliと同定された”が正しい表現となります。この菌名ですが, 国際細菌分類命名委員会International Committee on Systemtic Bacteriology (ICSB) で決定され, 分類階級の上位から門 (Division) →綱 (Class) →目 (Order) →科 (Family) →属 (Genus) →種 (Species) と設定されます。また亜 (Sub-) はそれぞれの階級の分類群 (タクソン) にきちんと分割されるときに接頭語として設けられます。例えばレジオネラ肺炎の原因菌Legionella pneumophilaは菌種名であり, 綱 (Class) はProteobacteria, 目 (Order) はLegionellates, 科 (Family) はLegionellaceae, 属 (Genus) はLegionella, 種 (Species) がLegionella pneumophila, そして亜種 (Subspecies) はLegionella pneumophila subspecies. pneumophilaとなります。一般的には種名の表現が多いのですが, 正式には亜種まできっちり標記すべきでしょう。また, 国際細菌命名規約に支配されないのが亜種の下の細分であり, 生物型 (Biovar), 化学型 (Chemovar), 形態型 (Morphovar), 病原型 (Pathovar), ファージ型 (Phagovar), 血清型 (Serovar) などがあります。ちなみに人の感染症原因細菌の中でよく知られている亜種としては, チフスを起こすSalmonella enterica subspecies enterica serovar Typhiや, 食中毒・とびひ・MRSAで知られるStaphylococcus aureus subspecies aureusがあります。これら分類と命名に関する新しい情報は研究論文として正式機関紙International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (IJSEM) に紹介され裁定委員会で決議されます。正式名称チェックのためのDSMサーバーはIJSEMのホームページ[ http://www.dsmz.de/bactnom/bactname.htm ]を利用することができます。

 (大手前病院・山中喜代治) 

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