03/10/07
■ 細菌の分類・・・phenotype, genotype, serotype
【質問】
 初めまして。お忙しいなか, 初歩的な質問で誠に申し訳ありませんが, 細菌学の分類で, phenotype, genotype, serotypeというのがあるのですが, それぞれ, どのような分類で, そしてどのような意味があるのでしょうか。

 もう一つ, 細菌学の検出方法としてのELISA法はどの程度信頼性のあるものなのでしょうか。他の方法, 培養やPCRと比べると, どのような利点と欠点があるのでしょうか。何卒よろしく御教授下さい。

【回答】
 phenotype, genotype, serotypeは, 各々表現型, 遺伝子型, 血清型と同意語として使用されていると思いますが, 血清型“serotype”はphenotypeに含まれると考えられます。つまり, 表現型としてのphenotypeには血清型以外にも生物型, ファ−ジ型を始め, ブドウ球菌ではコアグラ−ゼ型, 緑膿菌のピオシン型等々, 数え上げたらいくつも出て来ます。そして, このphenotype については接尾語に“・・・ -type”ではなくて“・・・ -var”と標記することになっているのです。

 確かに従来は, 特に生物型や血清型の場合は“・・・ -type”という接尾語が汎用されてきた経緯があります。しかし国際細菌命名規約では, “・・・ -type”は科 (family), 属(genus), 種(species) 等の分類に関する基準を示すのに用いることから, 混乱を回避するために, これら以外には用いないように勧告されているのです。ですから, 例えばSalmonella serovar Typhiや, Vibrio cholerae O1 biovar eltorの様に標記するのです。いずれにしましても, 表現型“phenotype”は, その微生物が示す物理的あるいは化学的な性質のことで, 形態や種々の生理活性によって区分されるものです。

 一方遺伝子型(genotype)とは, 菌体を構成する蛋白質や酵素をコードする遺伝子の違いによる分類で, 現在では, 場合によってはその遺伝子を構成する塩基配列を読み取ることも可能です。なお, それぞれの型は, 相互に独立したものであることです。従って, これらの型は, 組み合わせることによって分離株の疫学マ−カ−として活用されるのみならず, 病原因子保有の有無を知るためのスクリ−ニングにも利用されています。以下に, いくつかの実例をお示しします。理解の助けになれば幸いです。

(1) 分離株を種々の表現形質(phenotype)から解析して菌種同定し, さらに血清型(serovar), 生物型(biovar)やファ−ジ型(phagovar)の表現形質を得て, 疫学の指標にするのみならず, 例えば, 下痢症の便から分離された大腸菌のO抗原(血清型)がO-157と決定されたら, vero毒素産生性(表現形質)を試験して, VT1およびVT2のいずれも産生性であることが確認された。なおこの時, VT1およびVT2遺伝子保有の有無(遺伝子型)をPCR法で確認する検査法もあります。

(2) 腸球菌感染症が集団発生し, いずれの症例もバンコマイシンが無効であった。バンコマイシン耐性遺伝子保有の有無とその遺伝子の型(genotype)を試験し, vanA 遺伝子型腸球菌に起因するアウトブレ−クと判明した。

(3) 下痢便より分離したSalmonella属菌のO抗原を調べてO-2群で, 鞭毛の一相抗原が“a”で二相抗原は認められなかったので, 分離株は Salmonalla serovar(血清型)Paratyphi Aと同定した。

 以上の実例から, 表現形質や遺伝子型の臨床細菌学における活用の仕方を汲み取って戴きたく思います。

 もう一点の, 細菌検出法としてのELISA法に関するご質問ですが, その信頼性という意味をどう捉えるべきなのかが難しいところです。その特異性や感度による性能をよく理解した上で判定していただく必要があるとお考え下さい。一般的になりますが, 培養法や遺伝子を検出する方法と比較した場合の利点と欠点について述べますと, 培養法では時間がかかるという欠点と治療のための抗菌薬感受性試験を実施できるという利点を持ち, 遺伝子検出法では, 特異性が高く高感度であるという利点と, 外来混入物などによる誤判定や比較的コストがかかるという欠点を持っていると言えるかと思われます。また, 培養法のみが「検査材料中に生きている病原体」を検出する手法です。遺伝子検出法や ELISA 法では, 必ずしも生きている病原体を検出しているとは限らないことにも留意すべきと考えます。

以上, 簡潔にお答え申し上げました。

(信州大学・川上 由行)
【質問者からのお礼】

 大変参考になりました。ありがとうございました。


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