03/11/10
03/11/11
■ サルモネラの検査について
【質問】
 初めてご質問をさせて頂きます。職業は冷凍食品メーカー (工場勤務) です。私は食品メーカーに勤めておりますが, 最近, サルモネラ (検査) で疑問に思うことがあり, 下記にて質問をさせていただきたいと思います。
  1. サルモネラには硫化水素を産生するものと非産生ものがありますが, どちらの種類も人に対する病原性があるのでしょうか???
  2. DHL培地とMLCB培地を平行して検査をしているのですが, DHLとMLCBとの, 培地としての性能の違いはあるのでしょうか??? 違いがないのであれば, どちらかを別の培地に切り替えたほうが良いと思うのですが・・・
  3. TSIとLIMで確認判定を行っているのですが, サルモネラ陽性となるのは, TSIで高層部が黒変・斜面部が赤, LIMで全体に紫色になっている場合で良いのでしょうか??? (TSI・LIMともに上記性状を示した場合のみ陽性として良いのでしょうか???)
 ちなみに現在わが社では, サルモネラ検査の手順としてEEMブイヨン⇒ラパポート⇒DHL・MLCB⇒TSI・LIMとなっております。お忙しい中, 大変恐縮ではありますが, 何卒ご返答の程よろしくお願いいたします。

【回答】
Salmonella 属の硫化水素産生と病原性

 Salmonella 属の宿主域が広くヒトおよび各種の哺乳動物, 鳥類が保有または感染します。Salmonella 属の硫化水素産生菌と非産生菌によるヒトに対する病原性(病態の違いはあります: 急性胃腸炎型, チフス様疾患型)の違いはありません。Salmonella 属は細胞侵入性を持つ菌種で, 大型のプラスミドがあり, これを失うと病原性が低下するとされています。Salmonella属は腸管の上皮細胞に侵入, 増殖して腸管粘膜を破壊します。その結果, 上皮組織に炎症がおこり, 組織破壊によって炎症性細胞, 血液, たんぱく質を含んだ下痢便が排出されます。

 Vi抗原(莢膜) も病原性と関連するとされています。この抗原を有する菌種としてはS. typhi (S. typhi以外の菌種でもVi抗原を有する菌種があります) がありますが, 病原性の強弱との関連は確立されていません。

 Salmonellaの場合, 硫化水素の産生能は未知の菌種を分類するための一つの特徴づけ試験にしかすぎません。しかし, ある病原因子を有する細菌が, 特定の性状特徴を有する場合もあり, 性状試験判定時にはこれらのことも考慮しながら判定, 観察することが重要です。

・DHL寒天培地とMLCB寒天培地の違い

 DHL寒天培地の特徴はペプトン含有量(20 g)が多くShigella の発育が良好であり, SalmonellaShigella の集落が他の選択培地に比べ大きいことにあります。MLCB寒天培地はリジンを含有しているためSalmonella が鑑別推定しやすく, 良好に発育します。両培地とも他の菌種阻止力は同様であること, また同様なコロニー色調で検出方法は同じです。しかし, 両培地における野外材料からのSalmonella 属の分離率比較ではMLCB寒天培地の分離率が高いとの報告があります。使用する分離培地は同程度の選択力や発育支持力の培地を組み合わせて使用するより, 選択力, 支持力の異なる培地を組み合わせて使用する方法が良いと思います。主たる分離目的がSalmonella属であれば, DHL, MLCB培地などの硫化水素産生性を検出原理とする培地と, 硫化水素非産生であってもSalmonella属が検出できる培地(ブリリアントグリーン培地やランバック培地, コロムアガーサルモネラ培地)などを組み合わせる方が良いと思います。

・TSIとLIMでの確認試験判定について

 Salmonella属の定型的集落を上記2確認培地に接種した場合にはTSI培地にあっては高層部黄変・黒変・ガス産生(高層部における気泡または亀裂の発生)および斜面部が赤変です。LIM培地では培地全体が紫変, インドール陰性, 運動性陽性(稀に陰性がある)を示すのが典型的な胃腸炎型Salmonella属の性状です。しかしS. Paratyphi Aは硫化水素非産生, リジン陰性で, S. typhi は硫化水素を少量しか産生しない特徴があります。使用している性状培地で多くのSalmonella属がスクリーニング可能ですが, 数種の特徴性状を考慮しながら同定判定をされると良いと思います。

Salmonella属の培養手順について

 分離検出方法は十分だと思います。最初のEEMブイヨンでの増菌が最も重要で材料(固形の場合には乳化する方がよい)と培地の接触をよくするために培養後3〜5時間後に混和することで検出率がさらに向上すると思います。

(琉球大学・仲宗根 勇)

【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 早速のご返答ありがとうございました。頂いた内容を参考に, より良い検査が行えるよう, 取り組んでいきたいと思います。


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