04/06/23
■ “さんまの開き”と一般細菌
【質問】
 “さんまの開き”を製造していますが, 従来, 焼いて食べるものとして細菌などはそれ程気にしていませんでした。しかし開きで寿司にして食べる場合もあるので, 細菌数の検査をしてもらいましたが, 果たしてこの数値をどう考えれば良いのかわかりません。良いものなのか (干物はこんなもの???), あるいはこれでは酢で〆るだけの寿司はだめ??? など, 考え方を教えていただけませんか。

[検査成績] 一般細菌数  1.1×10^5/gram

検査所に尋ねたところ, 「少なくはないが, 干物には規定がないのでなんともいえない」とのことでした。よろしくお願いします。

【回答】
 “さんまの開き”は食品加工での乾製品の中の塩干品に属するものです。これは質問者がよくご存知かと思いますが, 魚介類をいったん塩蔵してから乾燥した食品です。この目的は, 塩蔵により肉の水分を除くと同時に, 食塩の防腐作用によって乾燥中の変質を防ぐために低水分にすることにあります。食塩には, 酸素の溶解度を低下させる作用 (好気性菌の発育抑制) や各種酵素の働きを抑制する作用などがあり, 貯蔵性を高めるのに役立っています (図解食品の貯蔵・加工. 近末 貢編, 医歯薬出版)。魚の新鮮時および腐敗時の生菌数を調べた結果を見ますと, マアジ(新鮮時1.2×10^4/gram, 腐敗時4.3×10^8/gram), マサバ(新鮮時6.0×10^3/gram、腐敗時8.8×10^5/gram), イシモチ (新鮮時5.3×10^3/gram, 腐敗時1.9×10^8/gram), マイワシ (新鮮時1.5×10^4/gram, 腐敗時7.3×10^8/gram), イサキ (新鮮時1.3×10^6/gram, 腐敗時1.1×10^8/gram) などという報告があります (堀江 他: 食衛誌. Vol. 13(5): 410-417)。このことから、各魚種での生菌数がまちまちであることがわかります。ご質問の“さんまの開き”中に1.1×10^5/gramの細菌数をどの様に理解するかは, 質問者が通常製造していて製品に自信がある製品であれば, 検査した結果は, 通常の菌数として認識してよいとおもいます。さらに, 製品を通常の流通条件と同様に保存 (賞味期限の倍以上の日数を目安) して, 定期的に検査所へ検査をお願いし, 菌数がどの様に変化するかを記録しておくことも参考になるでしょう。その時, 必ず官能検査を従業員と一緒に行ない, 記録しておくことも大事です。参考までに, “くさや“という水産醗酵食品を製造するための“くさや汁”には10^7_10^8/mlの生菌数が確認されています (食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック, 第_節 水産醗酵食品 藤井建夫. サイエンスフォ_ラム)。

 前述の通り, “さんまの開き”は保存のための工程を施した食品であり, 焼いて食べるものとして流通しているものです。この様な製品を“酢で〆るだけ”の寿司の“ねた”として食べることを避けるようにしてください。食された方は珍味でおいしく, 病気も発症せずに, また食べたいとおっしゃることがあるかも知れませんが, 製造元への寿司屋からの質問に対しては, 決して容認してはなりません。もし, 食中毒事件が発生した場合, 製造元がOKであると言ったといわれれば, 営業上致命的打撃となるでしょう。

 追記: 食品の腐敗は, 生菌数が増えて食品を分解して, 官能的に許容できず, 食品として食べることを事前に止めることができますが, 食中毒菌が問題となる理由は, 官能的には判断がつかないために, 食品として食べてしまうところにあります。

(日水製薬・小高秀正)


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