04/03/29
■ SCD培地の菌発育特性について
【質問】
 SCD培地は一般細菌用として使用されていますが, 具体的にどのような細菌が生えて, どのような細菌は生えないのでしょうか。あまりにもくだらない質問なのかも知れませんが, 宜しくお願いします。

【回答】
 まず, SCD培地はTrypticase Soy 寒天培地と同じですので, Trypticase Soy 寒天培地で説明いたします。

 SCD培地にはどのような細菌が発育し, どのような細菌が発育しないのかとの質問ですが, 単に発育すると言う意味と, 発育し, さらに発育集落で菌種の鑑別 (推定)ができるとは意味が違いますので, ここでは“単に発育する”と解釈して説明します。

 Trypticase Soy 寒天培地またはその液体培地 (Trypticase Soy Broth) の特徴は大豆をパパインで消化した大豆ペプトンを用いた代表的な培地です。大豆ペプトンは炭水化物, ビタミン, 特にビタミンB1を豊富に含み, きわめて広範囲の菌種の発育を支持します。一般細菌 (普通寒天培地で, 通常大気の培養で発育する菌種として理解して下さい), 真菌はもちろん, 普通寒天培地に発育しない栄養要求性のあるナイセリア属, ブルセラ属, 連鎖球菌, 肺炎球菌, パスツレラ属, 嫌気性菌なども発育が可能です。このような幅広い菌種への発育支持力は豊富な炭水化物によるものであり, 従って本培地は炭水化物分解試験には使えません。

 言葉の定義ですが, “広範囲の菌発育を支持する”と書きましたが, 広範囲とはどの程度の菌種まで含まれるのかの問題があります。SCD培地は環境中の細菌の検出を目的に使用される場合が多いので, 上記の理由から通常大気におおわれた環境に由来する細菌の発育は支持すると思います。しかし動物に由来する細菌には特殊な栄養や環境を要求する菌種 (例Haemophilus属) があり, これらの菌種は発育できません。それぞれの培地の発育支持能力は, 単に培地の組成だけではなく, 培養する環境にも大きく影響されますので, 培養条件も考慮する必要があります。発育できない細菌については, 培地の組成が不適切で発育しないのか, 培養する環境が不適切で発育しないのか, 様々です。

(琉球大学・仲宗根 勇)
【質問者からのお礼】
 大変ありがとう御座います。分かり易い説明でした。この疑問は,具体的には微生物の試験の中の,微生物限度試験で,生菌数 (培地はSCD寒天培地とサブローブドウ糖寒天培地を用いています) と言う試験と特定微生物 (『大腸菌群』,『サルモネラ菌』,『緑膿菌』および『黄色ブドウ球菌』です) の試験がありますが,始めの生菌数試験で『集落が確認できなかった場合』には特定微生物試験を行う必要があるのかという疑問から出たものです。この試験は日本薬局方の微生物限度試験です。

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