03/04/15
03/04/14
■ 食品検査における細菌培養について
【質問】
 はじめまして。液卵工場で細菌検査 (一般細菌, 大腸菌群, サルモネラ, 黄色・白色ブドウ球菌, セレウス菌) を担当している者です。早速ですが, 4点質問をさせていただきたいと思います。 

 1点目は, 大腸菌群はデソキシコレート寒天培地を使用しているのですが, 「サンプルのpHによっては, 大腸菌群でも白いコロニーが出ることがある」ということで, デソキシコレート培地上での白いコロニーもカウントしています。が, 液卵のpHは全卵で7.7±0.1, 卵黄で6.4±0.1, 卵白で9.1±0.4程度です。希釈には生理食塩水を使用しており, リン酸緩衝生理食塩水を使用していませんが, 10倍に希釈するとpHは中性に向かう筈なので大きな影響はないと思っていますが如何でしょうか。希釈倍率は10倍〜10,000倍程度, デソキシコレート寒天培地のみで, 確認試験はコスト上不可能です。 

 また自社検査で“大腸菌群陰性”でも, 液卵を使用していただいている会社の方から“大腸菌群陽性だった”といわれることがありますが, 白いコロニー数を計測することで解消できるのでしょうか。「薄いピンクのコロニーなどでは確認試験では陰性になることが多い」と聞いています。 

 2点目は, サルモネラの検査ですが, XLD寒天培地で黒色コロニーが分離できなかったとき, いったん生理食塩水 (1 ml程度) に釣菌した菌を植え, 24時間35℃で培養してから再びXLDに塗沫するのですが, 生理食塩水で増菌できるのでしょうか。この方法では、2度目のXLD塗沫で陰性になるときもあります。有効な分離方法があればご指導お願い致します。 

 3点目は, 黄色ブドウ球菌の判別ですが, 判定の際, シャーレの蓋を開けると特有の嫌な臭いがあります。あの臭いは黄色ブドウ球菌と何か関係があるのでしょうか。
 最後はNGKG卵黄加培地についてですが, 注意をして作っているのですが, NGKGはよくコンタミネーションが起こります。当方の会社はあまり気にせずにそのまま使用しているのですが (混入するコロニーの数は10個もありませんが), コンタミによって影響は何か出るのでしょうか。 

 以上, 初歩的な質問で申し訳ございませんが, ご指導よろしくお願い致します。 

【回答】
 「サンプルのpHによっては, 大腸菌群でも白いコロニーがでることがある
 分離培地に出現するコロニー色調は, サンプルのpHには影響されません。サンプルのpHに影響するのは分離培地上での発育性やコロニーの大きさに影響します (この場合でも大量にサンプルを接種した場合です。通常の白金耳での塗布の場合には塗布初めに菌発育を認めず, 希釈が進むにつれて発育が観察されます)。今回, 使用されている分離培地 (デスオキシコーレイト寒天培地) の組成は, デスオキシコール酸ナトリウムでグラム陽性菌の発育を抑制し, 大腸菌をはじめ腸内細菌の発育性には影響しません。また乳糖を含むため, 乳糖分解から産生された酸でデスオキシコール酸ナトリウムから不溶性のデスオキシコール酸を析出させ, 培地中に含まれるフェーノール赤と結合して赤〜ピンク色のコロニーを形成します。しかし乳糖非分解の菌種 (一部の大腸菌を含め)ではこの反応が起こりませんので白色コロニーを形成します。臨床材料から検出される大腸菌の95%は乳糖分解菌 (着色コロニー) ですが, 残り5%は非分解菌ですので白色コロニーにも大腸菌が含まれます。


(培地上のすべてのコロニー, ピンク色および白色コロニーが大腸菌です)

 また「薄いピンクのコロニーなどでは確認試験では陰性になることが多い」ということですが, 乳糖非分解大腸菌以外の菌種が考えられます。デスオキシコーレイト寒天培地には他の乳糖非分解腸内細菌群 (Enterobacter, Serratia, Proteus など)が発育可能です。特に試験対象サンプルからこれらの菌群が考えられます。 

 「サルモネラ検査」についてですが, 結論から申しますと, サルモネラは生理食塩水では増菌できません。現在の増菌方法は無駄ですので中止してもよいと考えます。サルモネラの増菌培地としては数種あります。可能な方法を試してみて下さい。 

 (1) SBG 基礎培地 (日水製薬): Proteus, Pseudomonasも発育も抑制します。
 (2) EEM (日水製薬): 食品および動物飼料からのサルモネラ菌の増菌。
 (3) セレナイト・ シスチン基礎培地 (日水製薬): 食品および水からのサルモネラ菌の増菌。
 (4) ラパポート培地 (栄研化学): 食品および臨床材料からのサルモネラ菌の増菌。
 (5) ハーナ・テトラチオン酸塩基礎培地 (栄研化学): 食品および臨床材料からのサルモネラ菌の増菌。
 (6) SBGスルファ基礎培地 (栄研化学): 卵および卵製品からのサルモネラ菌の増菌。
 (7) テトラチオネート液体培地 (栄研化学): 水および食品からのサルモネラ菌の増菌。 

 「黄色ブドウ球菌の嫌な臭い」についてですが, ブドウ球菌自体は臭い成分を産生しませんが, 黄色ブドウ球菌は多くのタンパク分解酵素を産生します。そのためタンパク質を含む培地ではそれぞれの特有な臭いを発します。 

NGKG培地作成時の汚染」についてですが, NGKG培地作成時での汚染原因は添加する卵黄液が原因ではないでしょうか。自家製卵黄採取時での汚染がもっとも考えられます。汚染コロニーが10コロニー前後とのことですが, 培地汚染ではコロニー数は関係ありませんので, 使用を避けた方が良いと思われます。またNGKG培地はBacillus 菌を検出する培地ですので, 環境中から汚染するBacillus と鑑別できないおそれがあります。

(琉球大学・仲宗根 勇)

【質問者からのお礼】
 ご指導ありがとうございます。デソキシコレート培地は塗抹ではなく混釈なのですがpHにはコロニー色調は影響されないということで理解いたしました。受信エラーで映像をいただくことができず大変残念でしたが, 当方の会社内でカウントの基準などを再考したいと思います。


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