03/06/19
03/06/18
■ 犬の耳垢で観察された酵母真菌
【質問】 
 はじめまして。動物病院に勤務する獣医師です。よろしくお願いいたします。 
犬の耳垢に観察された酵母様真菌と思われる菌について質問いたします。犬の外耳炎の原因となる酵母は, ほとんどがマラセチア・パチデルマティスであるといわれています。実際の診療では, 耳垢の塗抹を鏡検し, その形態から診断しています。そのマラセチアの形態とは明らかに異なる形態を示す酵母様真菌が観察されることがしばしばあるのですが, その菌が何なのかというのが気になっています。画像を添付させていただきますので, ご参照ください。 

No. 1が正体不明の菌で, no. 2の方が比較として撮影したマラセチア・パチデルマティスと考えられる標本です。どちらも耳垢の塗抹を火炎固定し, 簡易染色で染めたものを×100の油浸レンズで観察したものです。検体を採取し, そのまま保存することなく, 直接サブロー培地にて室温で培養したところ, 発育が観察されませんでした。形態から酵母に間違いないと考えていますが, その他の可能性はあるでしょうか??? また外耳炎の症状としては軽いものですが, できれば同定試験を実施し, 原因菌を特定したいと考えています。試験を行う上でのアドバイスをいただけますでしょうか。よろしくお願い申し上げます。 

    
       (no. 1)                 (no. 2) 

【回答】 
 染色標本に観察されるのはまさしく酵母様真菌です。サブロー寒天培地に発育しないということで, 本培地に発育し難い酵母, あるいは発育するが発育速度の遅い酵母なども除外は出来ませんが, 状況から判断してパチデルマティス以外のマラセチア属菌種の可能性が高く, 形態からM. globosaが考えられます。 

 マラセチア属菌の中では, パチデルマティスのみが例外的に非好脂性菌で, 他の菌種はすべて好脂性です。したがって, 培地にオリーブ油などを添加しないと発育しません。簡単な分離法としては, 通常のサブロー培地に通常とおり試料を植えた後, 試料をすべて覆う“たっぷりの量”のオリーブ油 (試薬として発売されています) を重層します。オリーブ油は, 滅菌せずにそのまま使って良いですが, 開封後はビンの口を汚さないように扱って下さい。重層した培地はできれば32℃, なければ35℃の孵卵器で2週間程 (はやければ7日から10日でも発育) 培養します。オリーブ油層の中に白い塊が浮いてきますので, それが集落です。試料に共存する細菌あるいは他の酵母も同様の形態で発育してくることがありますので, 必ずスライドガラスにとって形態を確認して下さい。他の酵母との鑑別は, オリーブ油層の中の白い塊を出来るだけ油分をおとして2枚のサブロー培地にとり, 画線分離して, 片方にオリーブ油を重層, もう1枚はそのままにして培養し, オリーブ油を重層した方にのみ発育した場合はマラセチア, 両方に発育した場合は他の酵母と判断します。本菌属の分類および同定については1996年に発表されたGuilliotらの詳細な報告があります。末尾に記載しますので参考になさって下さい。 
Guillot J., Gueho E. et al: Identification of Malassezia species. J. Mycol. Med. 1996; 6 : 103〜110. 
 

(北里大学・阿部美知子)

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