03/06/23
■ 犬の耳垢で観察された酵母真菌 (その2)
【質問】 
ご返答ありがとうございました。追加の質問をさせていただいてもよろしいでしょうか??? 

あれから個人的に文献など調べまして, 見よう見まねで培養してみましたところ, やはりパチデルマティスとは異なる形態の酵母様真菌の発育を認めました。オリーブ・オイルを重層する方法ではなく, 10%になるようにオリーブ・オイルを添加したサブロー培地を作成し, それを使用したところ, 37℃, 48時間の培養で白色のコロニーが得られました (写真1)。塗抹したところ, 顕微鏡でみられる形態とは異なっていましたが, それらを無添加サブロー培地に再び移植しましたら, 同様のコロニーが発育しまして, やはりパチデルマティスなのだろうかと思っていたところです。オイル成分が付着していると無添加培地でも発育してしまうのでしょうか。 

(写真1) 
またTween20とTween80が手近にあったので, それぞれを添加したブドウ糖ペプトン培地を作成し, 37℃, 72時間培養してみました。その時, 同時に典型的なパチデルマティスと思われる検体も同じ条件で培養しました。結果はすべての培地でおのおの発育が見られました (写真2: パチデルマティス, 写真3: 不明の酵母)。M.J. Crespoら (2000) およびT. Muraiら (2002) の論文を参考に検討すると, M. furfurM. pachydermatisのどちらかと言えるのだろうかなどと考えていたのですが・・・。培養途中で異なる酵母を追いかけてしまったのでしょうか。M. globosaと断定するにはやはり遺伝子解析しかないのでしょうか。 

(写真2) 
(写真3) 
夏休みの宿題レベルの培養実験でお恥ずかしいですが, お返事, お待ちしております。よろしくお願い申し上げます。 

【回答】 
 原点にかえってみます。 
(1) 検体の分離培養で, 必要な培養時間内に通常のサブロー培地には発育せず, 油分を添加して初めて発育する。 

(2) 分離した酵母は1種類である。 

(3) 油分を添加した分離平板上の初代コロニーを油分を添加しないサブロー培地に接種すると発育してくる。 

(4) Tween20とTween80の資化性がある, ということで理解してよろしいでしょうか。 

ここで確認しておきたいのは, 検体分離で用いたサブロー平板培地に必要な時間培養してもまったく発育しないということが確実か否かです。また, (3) の項目を確実にしたいのであれば, 油分を添加しないサブロー培地への接種, 培養を2回くりかえされれば良いと思います。2回目の分離時の菌体は1回めの画線分離の“最後の部分 (画線のひき終わりの部分)”から採って下さい。好脂性と断定されたのであれば, 簡易同定法として“カタラーゼ反応”を追加試験されては如何ですか。パチデルマティスは通常陰性, あるいは弱陽性とされています。好脂性マラセチアの中ではレストリクタのみが陰性で他はすべて陽性です。 

(北里大学・阿部美知子)

【お礼と追加質問】
回答ありがとうございます。もう一度, 油分無添加サブロー培地できちんと培養してみます。最後にもうひとつよろしいでしょうか。
 先生は, 最初の画像をご覧になって, M. globosaではないかとおっしゃいましたが, マラセチアはその形態である程度分類可能なのでしょうか??? あるいは, “犬だから可能性が高い”とお考えになられたのもあるのでしょうか。
カタラーゼ試験、実施してみようと思います。アドバイスありがとうございました。

【回答】
菌種によって, ある程度の特徴があります。直接鏡検での形態と培養後の形態が異なる菌種あるいは菌株があるかもしれませんが, 前に紹介した文献には1週間培養後の各菌種の形態が写真で掲載されています。例えば, M. pachydermatisは小形 (2×4μm), 球状, 娘細胞への移行部が太い (broad base), M.furfurは最も多形性で円柱状から球状を示す, M. sympodialisは最も小形 (1×5μm), M. globosaは形態が安定しており球状 (直径2〜4μm) でnarrow baseであるなどです。

(北里大学・阿部美知子)

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