04/03/23
■ 真菌の選択培地
【質問】
 はじめまして。突然の質問で失礼致します。私は静岡の製茶会社で細菌検査を担当しております。弊社では一般生菌数, 大腸菌群, 耐熱生菌数, 真菌類を検査しております。

 真菌の検査についての質問です。弊社の検査方法は10 gramのサンプル (ほとんどお茶です) に90 mlの生理食塩水を加え, 10倍希釈液を作ります。これを1 mlシャーレに分注, “10%酒石酸を添加したポテトデキストロース寒天培地”で混釈し, 25℃で5日培養しています。お客様より, 培地に抗生物質を添加した方法で検査してほしいとの要望がありました。弊社の検査結果とお客様の検査結果に違いがあったようでした (お客様は培地にクロラムフェニコール100mg/L添加です)。弊社では酒石酸を使用した方法を昔から採用しており, 特に問題もなかったのですが, やはり抗生物質を使用した方がよろしいのでしょうか??? これら二つの方法の結果は比較参考することはできないのでしょうか??? よろしくお願い致します。

【回答】
 私の手元に「食品衛生検査指針」がありませんので確認できないのですが, 本件につきましては, ご質問の本質についてお応え申し上げます。

 酒石酸の添加は培地のpHを十分に下げて雑菌の発育を抑制するためですし, クロラムフェニコ−ル添加は, クロラムフェニコ−ルによる雑菌の発育を抑制 (雑菌の殺菌) するためですよね。確かにどちらでも雑菌抑制効果が期待できるのですが, 雑菌の発育を抑制する機構 (メカニズム) が異なります。ですから, 得られる結果に相違が生ずるのは当然のことです。というより, 異なる成績が得られるのは必然でしょう。

 「酒石酸添加」では, その培地のpHで発育不能な微生物のみが集落を形成せず, 一方「クロラムフェニコ−ル添加」では, クロラムフェニコ−ル感性微生物のみが発育不能になる訳ですよね。つまり, 発育不能な微生物はそれぞれ異なるんですよね。繰り返します。

(1) 貴方の会社の検査結果とお客様の検査結果に違いがあるのは当然です。

(2) 貴方の会社では酒石酸を使用した方法を昔から採用しており, 特に問題もなかったとのことですが, ただ単に《運良く, デ−タの解離 (問題点) を指摘されたことがなかった》または《たまたま, デ−タの解離 (問題点) を指摘するお客様がいなかった》と言うことでしょう。

(3)「やはり抗生物質を使用した方がよろしいのでしょうか??? これら二つの方法の結果は比較参考することはできないのでしょうか???」ですが, 方法が異なれば, 成績も異なるのは必然です。成績を相互に比較評価できるわけがありません。

 また気が付いたことなのですが,「真菌」は (偏性) 好気性 (培養に酸素を必要とする微生物) です。「混釈」培養で, 一週間足らずの培養で, 肉眼的に計測可能な集落として深部 (大気と触れない培地の深いところの) コロニ−が形成されるのでしょうか??? また, この「混釈」培養を「食品衛生検査指針」が真菌の定量培養法として規定しているのでしょうか??? また, 真菌と言っても「糸状真菌」と「酵母様真菌」とではかなり異なると思うのですが??? 少なくとも「糸状真菌」は、「混釈」培養5日間では検出困難であることは明らかでしょう。冒頭にも記しましたが, 私の手元に「食品衛生検査指針」がありませんので確認できないのですが、もし質問者の記載通りの混釈培養法を「すべての真菌」にまで推奨しているとしたら, 私は指針の記載に疑問を投げ掛けたいと思います。真菌の定量培養は, 一律な混釈法では正しく測定できないのではと考えます。活字になっている記載 (指針) が必ずしも適切でないことはよくあることなんです。キチンとした評価を行って検証し, よりよい指針へ改訂していくのは, 疑問を感じた実務担当者でなければ出来ないのです。ご検討されることをお奨め申し上げます。

 日々, ただ日常の仕事をこなすのではなく, 目的に応じた検査方法を選択し, 培地への添加物とそれらの添加目的を理解し, また添加物の選択性の機構 (メカニズム) をも理解しながら等々、とにかくこれを機会に, 一つ一つのステップが持っている意味からキチンと勉強 (確認) し直して見ては如何でしょうか。

                        (信州大学・川上 由行)


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