04/02/18
■ 黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の違い
【質問】
 食品製造業で衛生管理の仕事に携わっています。単純な質問で申し訳ありませんが, 黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の違いを教えていただけますか???

【回答】
 和名の黄色ブドウ球菌は, 菌種名でStaphylococcus aureusのことです。黄色ブドウ球菌と命名された由来は, マンニット食塩培地や血液寒天培地などで培養された菌集落の色が淡黄色から黄色だからです。黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌“グループ”との大きな違いは, マンニットの分解能とコアグラーゼ試験 (ウサギやヒトの血漿を凝固させる能力試験) です。黄色ブドウ球菌はマンニットを分解し (集落は黄色), 血漿を凝固させます。表皮ブドウ球菌はマンニットを分解せず (集落は白色), 血漿を凝固させませんから, 容易に分類することができます。

 表皮ブドウ球菌という名称はひとつの菌種を表すものではありません。しかし一般的にこの名称で表現される菌種はStaphylococcus epidermidisです。ブドウ球菌は主に哺乳動物や鳥類の皮膚表面に生息します。表皮に生息するブドウ球菌の菌種は数多く, S. epidermidis, S. capitis, S. caprae, S. saccharolyticus, S. warneri, S. pasteuri, S. haemolyticus, S. homonis, S. lugdunesis, S. auricularis, S. saprophyticus, S. cohnii, S. xylosus, S. siinulansが含まれます。これらの菌種はすべてコアグラーゼ試験が陰性です。

 では, なぜ表皮に多種雑多なブドウ球菌が分布するのに, 表皮ブドウ球菌がS. epidermidisを指すかという理由ですが, これはS. epidermidisがヒトの多くの皮膚表面に最も多く分布, 生息しているため, 表皮から検出されるブドウ球菌の代表になっているからです。しかしヒトの特定の部分 (頭皮ではS. capitis, 腋下ではS. hominis, 外陰部ではS. haemolyticusが多く生息する) では他の菌種が多く生息することが分かっており, 現在では, 表皮ブドウ球菌の名称はあまり用いられなくなっています。

 また古い教科書には, 黄色ブドウ球菌と対比させて培養集落 (マンニット食塩培地や血液寒天培地) の色から白色ブドウ球菌と記載してありますが, これも表皮ブドウ球菌 (S. epidermidis) と同じ意味合いです。現在では, これらの表皮に生息する菌種を, 黄色ブドウ球菌と区別するために, 表皮ブドウ球菌の名称に代わって, “コアグラーゼ陰性ブドウ球菌属”と呼ぶのが通例になっています。

(琉球大学・仲宗根 勇)


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