03/09/22
■ ブドウ球菌でのコアグラーゼとプロテインA
【質問】
 微生物実験をしている学生です。現在, Staphylococcus aureusを同定する判断基準の1つとして, 結合コアグラーゼ (クランピングファクター) とプロテインAに対して凝集反応を起こすキットを用いております (結合コアグラーゼ陽性菌株の多くは, 遊離コアグラーゼにも陽性を示すという報告がなされています)。このキットを用いて, Staphylococcus sciuri およびStaphylococcus xylosusでも凝集を起こすことがたびたびあります。この結果が正しいとするならば, これら2株は, コアグラーゼ陰性株であることが文献などに紹介されているため, プロテインAを産生する株であるということになります。そこで, これら2株がプロテインA を産生する株であるかどうか調べてみたのですが, よい文献が見つかりませんでした。もしご存知の方がいらっしゃいましたら, 教えていただけたらと思います。よろしくお願い致します。

【回答】
 黄色ブドウ球菌の鑑別法として,凝集反応を利用したキットが普及してきていますが,どれも100%の確率で鑑別できるというものではありません。結合コアグラーゼ (クランピング因子) とプロテインAに対して反応するキットや黄色ブドウ球菌の莢膜多糖体抗原を検出するキットなどが市販されています。ご質問のStaphylococcus sciuriS. xylosus は文献的にはコアグラーゼ陰性です。両菌がプロテインAを産生するかということですが,一つの文献 (戸田新細菌学) によると,ヒト由来の黄色ブドウ球菌ではほぼ100%がプロテインAをもっていますが,動物由来株では保有率が低下し,コアグラーゼ陰性株は保有しないと記載されています。したがってコアグラーゼ陰性の上記2菌種の凝集はその他の原因による“非特異凝集”の可能性が高いと考えられます。稀にフィブリン親和性のある菌がクランピング因子の検査で陽性となることがあるといわれますが,報告があるのはS. lugdunensisS. schleiferi です。最も考えられるのは,菌体の自己凝集による“偽陽性”です。粘着性のあるコロニーを作る菌株では,菌どうしが凝集し, 陽性と紛らわしいことがあります。特に塩濃度の高い選択培地などで培養した時にその傾向が強いといわれていますので,非選択培地で培養した後に再検査することが勧められます。またそのような場合にはラテックスを介しての凝集ではないため,背景の液体 (感作ラテックス試薬) は白濁したままです。“真の凝集”の場合には白いラテックスを消費して凝集塊を形成しますから,周囲の液体は透明化する傾向があります。この点が鑑別点になると思います。また,菌量が多すぎたり, 反応時間が長すぎても,非特異凝集が起きやすくなりますので注意が必要です。当院では偽陽性や偽陰性が疑われた場合には,試験管法による遊離コアグラーゼの検査を実施しています。クランピング因子陽性菌株の多くは遊離コアグラーゼも産生するといわれていますので,キットで得られた凝集が“真の陽性か否か”の判断材料の一つになるのではないかと思われます

(玉名中央病院・永田 邦昭)

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