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【質問】
お世話になっております。清涼飲料水の業界でTalaromyces属菌が加熱殺菌された後の飲料から検出されたことで,
この菌に関しての調査が急務になっています。検出された製品はpH 3.6±0.1で殺菌条件は93〜95℃達温です。そこで質問させていただきます。
1. 本属の中にどのような種がありますか。
2. 本菌の菌体および胞子の耐熱性の度合い (死滅条件は)。
3. 本菌の検出を目的とした場合の検査方法
(培地, 培養温度, サンプルのヒートショック温度と時間, 培養時間など)
4. 毒素生成の有無。
御多忙中のところ恐縮ですがよろしくお願いします。
【回答】
先の私の回答に対して, 読者より以下のご指摘をお受けしましたので, 先の回答をすべて削除し,
改めて下記のように修正して掲載し直します。
【読者からの指摘】
「質問箱」をいつも拝見しております。ところで, 最近「質問箱」コーナーに掲載されたTalaromyces
属子のう菌についての質問に対する回答文中に明らかに誤解に基づくと思われる誤った記述があります。至急訂正願います。
・・・約60種ほどが記載されております。しかしながらこのほとんどは非公式な種名であり,
しばしばPenicillium 属としての報告も見られ, 未整理状態にあります。ここで「非公式」というのは,
IJSEM(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology)誌に搭載されてないからということです。正当な学名は
IJSEM 誌へ掲載されて初めて効力を発揮するのです。Talaromyces 属はまさに未整理状態にあるわけです。・・・ |
「非公式」というのはまったくの誤解です。細菌の学名は回答者が述べられているようにIJSEM
誌へ掲載されて初めて効力を発揮します。しかしながら, “菌類の学名”を規定する「植物命名規約」では,
細菌の学名のように特定の雑誌に掲載されることで有効名 (命名規約上正しく発表された学名)
になるということはありません。植物命名規約の則って記載された学名はすべて有効な学名
(公式な学名) です。至急訂正されるようにお願いします。
ついでにTalaromyces 属子のう菌とPenicillium 属カビとは,
完全世代―不完全世代 (テレオモルフーアナモルフ) の関係にあります。耐熱性子のう菌については,
宇田川俊一先生が日本における第一人者です。総説を書かれております。
[耐熱性子のう菌の参考文献]
・宇田川俊一: 耐熱性カビによる食品の汚染. 食品と微生物 (現 日本食品微生物学会誌)
8: 121〜130, 1991.
・宇田川俊一: 食品菌学の課題―耐熱性カビによる危害. マイコトキシン
50: 3〜11, 2000.
・矢口貴志: 菌類の採集・検出と分離: 土壌生Aspergillus, Penicillium
およびそのテレオモルフの分離法. 日本菌学会報 38: 101〜104, 1997.
・宇田川俊一, 矢口貴志: 耐熱性子のう菌類の分類と同定. ソフト・ドリンク技術資料
No. 135 (2001年3号), 75〜103, 2001.
乱文乱筆をお許しください。出勤前に急いで書きましたので, 舌足らずのところもあるかと思います。不明な箇所がありましたらご指摘ください。
【改定した回答】
先の回答における学名規約に関する認識不足の点は, 読者の方からのご指摘の通りです。誤りの箇所を削除させていただき改めて回答し直します。なお回答者は,
専ら医学領域に関わる臨床微生物学を専門にしており, 内容に不十分な点もあるかもしれませんので,
詳細につきましては上記の参考文献を最後に再掲しておりますのでそちらも合わせてご参照下さい。
1. 本属の中にどのような種がありますか。
CABI Bioscience Databases で Talaromyces 属を検索すると約60種類程の記載があります。以下にURLをお示ししますので参照下さい。
[http://www.indexfungorum.org/Names/names.asp?strGenus=Talaromyces]
2. 本菌の菌体および胞子の耐熱性の度合い (死滅条件は)。
日本缶詰協会研究所の缶詰時報 2002年 6月号[http://www.jca-can.or.jp/laboratory/kennews/ken2002/kent0206.htm]によれば,「耐熱性カビとしては
Byssochlamys
属, Neosartorya 属およびTalaromyces 属などが変敗原因として知られ,
100℃, 30分間でも生残する耐熱性が強いカビも存在します」との記載があります。ただ,
この記載については証拠たるべき出典の明示がありませんので, 真偽のほどは明らかではないと考えます。しかしTalaromyces
属は糸状菌ですので, もちろん次亜塩素酸やオ−トクレ−ブ処理は間違いなく有効でしょうが,
清涼飲料水に対しては不向きでしょうね。「目的を損ねない死滅条件の設定は難しそうです」としか私にはお答えできません。なお,
清涼飲料水の製造過程における異物除去に関する手法のノウハウは, それぞれのメーカ−がお持ちだと思いますので,
従来の方法をご確認いただいたらいかがでしょうか。
3. 本菌の検出を目的とした場合の検査方法 (培地, 培養温度, サンプルのヒ−トショック温度と時間,
培養時間など)
PDAやSDAなどの真菌用培地に24℃の培養温度で培養可能のようですが, 同定に関しては既に記載されている形態学的特徴に基づく方法が基本のようです。最終的には18S
rRNA遺伝子塩基配列による分類[http://www.nig.ac.jp/labs/AR99ja/research/I/Id3.html]との総合的判断が必要になるのではと思います。
4. 毒素生成の有無。
ヒトへの病原性に関してはあまり記載が見られませんが, 私が検索したかぎりでは,
〔LoBuglio, KF and Taylor JW: Phylogeny and PCR identification of the human
pathogenic fungus Penicillium marneffei. J. Clin. Microbiol. 33:
85〜89, 1995〕の原著論文の中に関連した記載がありますが, この論文中にも毒素
(トキシン) ということでの明確な記述は見られません。
なお, 読者の方からご案内いただきました文献は, ご質問の意図に則した内
容が示されていると思われます。ご参考にされるとよろしいかと思います。
(信州大学・川上由行)
【読者から】
早速の対応ありがとうございました。菌類の分類を専門としている (いた)
者にとって, 見過ごすことのできない誤った記述でしたので訂正をお願い申し上げました。臨床微生物迅速診断研究会へは,
微生物迅速同定法に関する情報収集のため最近入会させて頂きました。どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。
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