02/10/09
■ 喀出痰での嫌気性菌培養の適否
【質問】
 検体の取り扱いの質問です。入院となった嚥下性肺炎の起炎菌が嫌気性菌であろうと疑いましたので, 自己喀出喀痰を検体として嫌気性培養を依頼しました。しかし, 検査室から無意味であると検査を拒否されました。この場合, 喀痰での嫌気性菌の検査は無意味なのでしょうか??? なぜでしょうか??? 空気に既にふれているからか, あるいは咽頭部の嫌気性菌と混合するためでしょうか??? また有効な採痰方法があるでしょうか??? お教えください。 

【回答】
 嚥下性肺炎の患者さんの肺炎の原因菌を明らかにしようとする試みは, 1970年代に Percutaneous transtracheal aspiration法という侵襲的な方法により採取した下気道の吸引物を検体として行われ, 嫌気性菌の高い分離率が示され, 多くの人に信用されることとなります。現在ではその85%から嫌気性菌が分離されるというのが専門家の一致した記述です。嫌気性菌の宝庫ともいわれる口腔を経由して得られる喀痰を, この下気道の病原体の検出に使用することは, 臨床細菌学的に問題があり, 嫌気性菌学者はこれを勧めません。TTAによって採取した検体, double-lumen catheterの中のprotected bronchial brush検体は嫌気性菌検査の対象です。最近, BAL検体も嫌気性培養をやってもよいというようになってきました。いずれも定量培養が必要です。

 しかし, どうしても患者さんの負担のない・・・と考えると。下気道の常在菌であり, 下気道感染症の原因菌となる好気性菌である Streptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae, Branhanella catarrhalisを原因菌として推測する場合には良質な喀痰をグラム染色し, 定量培養あるいは洗浄培養する方法が行われているわけですから, 嫌気性菌についてもこれと同じ考え方でやれないことはないということになります。実際, 嫌気性菌感染症の診断のために適した良質の喀痰である場合という条件で, 検査をする検査室もあることを知っています。その場合には, 喀痰洗浄法をするのが普通のようです。つまり, 苦労して, お金をかけても, 分離できた菌が原因だという確証がもてないことが問題なのです。しかし, 治り難い重症な患者さんの場合にはどうしても喀痰を使って原因菌を推定して, 感受性を調べて, より適切な抗菌化学療法をいう主治医の気持ちもよくわかります。良質の喀痰に限ってということであれば, 検査室の方と十分話しをすれば, マンパワーが確保できれば, そして能力があれば, 協力してもらえる可能性があります。トライしてみて下さい。

 この学会の機関誌JARMAMの12 (1): 33〜37, 2001の永田邦昭先生の「嫌気性菌検査の進展を阻む要因?臨床材料の視点: 嫌気性菌感染が疑われる喀痰の選択基準」という論文を是非読んで, 検査室と相談してはいかがでしょう。

(岐阜大学・渡邉 邦友)

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