04/05/31
04/06/14
■“炭酸もの”で死滅しない菌について
【質問】
 清涼飲料水の工場に勤めています。

 ある“炭酸もの”で90℃以上の密封前の殺菌を行い, 後に65℃, 10分程度の殺菌は行っているのですが, 35℃培養で一般生菌が見られ, 芽胞菌ではと言う話もあったので, ためしに“フラットサワー用の培地”で培養したところ, 黄色のコロニーが見られました。仮に, Bacillus coagulans なら, 通常の環境では繁殖するとは考えにくいですが, 他の菌が死滅すれば“商業的無菌”と考えてもよいのでしょうか???

 また, このような殺菌条件で問題にはされていないが, 増えてしまうような菌や問題となりうる菌がありますでしょうか??? 厚生労働省の基準なら, pH 4.0以下の清涼飲料なら65℃, 10分, Z値5℃, 炭酸飲料は無殺菌でもよいとなっているのですが, “果汁もの”では耐熱性好酸性菌が問題とされていますが, “炭酸もの”では問題とされる菌はないのでしょうか???

【回答】
(1) 仮に, Bacillus coagulans なら, 通常の環境では繁殖するとは考えにくいですが, 他の菌が死滅すれば“商業的無菌”と考えてもよいのでしょうか??? 
回答:“商業的無菌”という言葉を聞いたのは初めてです。清涼飲料水の業界で使われている言葉でしょうか。通常, 無菌という場合, 非選択培地で増殖させた時, 菌の発育を認めない場合に使います。しかし, 35℃で培養し, 一般生菌が認められたなら, 無菌ではないと思います。食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック((株) サイエンスフォーラム)の第VI 節 清涼飲料 (UCCテクノデベロップメント(株) 平澤久紀氏) によりますと,「原水は水道水の水質基準に適合するものとし, 大腸菌群陰性, 細菌数は100/ml以下とする。殺菌条件はpHによる影響を大きく受け, pHが低く (つまり酸味の強い果汁類など) ものは殺菌温度を低くできるが, pHが上昇するに従って加温条件が厳しくなる。二酸化炭素圧が1.0kgf/cm^2以上であっても, 腐敗しやすい乳成分などを含むものは, 殺菌条件を厳密に選ばなければならない。メーカーでは, 食品ごとに殺菌条件を変えているのが実情で, 必ずしも食品衛生法による清涼飲料水の製造基準に従ってはいない。原料の品質によっては殺菌温度を下げ, ≪おいしい食品作り≫に努力を傾けている。基準はあくまで基準であって, 全体として品質が保証されればいいと考えるほうがよい。」

(2) また, このような殺菌条件で問題にはされていないが, 増えてしまうような菌や問題となりうる菌がありますでしょうか???

回答: 耐熱性カビであるByssochlamysや耐熱性酵母のSaccharomyces sp. がソフトドリンクから分離されたという報告があります。特に, 酵母が生残し, 増殖すれば, ガス分圧が変化し, ボトルが膨張する危険性があります。

(3) 厚生労働省の基準なら, pH 4.0以下の清涼飲料なら65℃, 10分, Z値5℃, 炭酸飲料は無殺菌でもよいとなっているのですが,“果汁もの”では耐熱性好酸性菌が問題とされていますが, “炭酸もの”では問題とされる菌はないのでしょうか???

回答: Zygosaccharomyces bailiiという酵母が問題になる可能性があると思います。この酵母は炭酸ガスにも耐性であることが紹介されています (Pitt, J.I.: Resistance of some food spoilage yeasts to preservatives. Food Technol. Australia 26; 238, 1974.)

(日水製薬・小高 秀正)

【回答】
 回答ありがとうございます。私も専門書にあたり, 質問した時期よりもだいぶ知識が増え, 解答も出ていましたが, 食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック ((株) サイエンスフォーラム) の記事は参考になりました。同社から最新の本を会社で購入することにしました。

 「商業的無菌」とは, 清涼飲料水というより缶詰協会の容器詰食品の加熱殺菌という本に載っていた内容です。「非冷蔵の, 通常の貯蔵・流通条件下において, 食品中で発育する微生物が存在しない状態」と言う定義であるようです。完全殺菌とは区別し, 容器詰食品の加熱殺菌の目的はこの「商業的無菌」を確保することにあると言う解説がされています。毒素などが科学的に出されないとされているpH域であれば, 増殖性がないことが確認されれば, 数が少なければ一般にOKと見ているのですかと言う趣旨で質問しました。

「≪おいしい食品作り≫に努力を傾けている」がその回答と私は感じました。

 ありがとうございました。ただ, 問題になりそうな菌が繁殖しないよう最新の技術を調べて制御していきたいと思います。


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