04/01/08
■ 血清型不明のベロ毒素産生性大腸菌
【質問】
 はじめまして。牛の直腸便から分離されるベロ毒素産生性大腸菌について質問させていただきます。検査手順として, 前培養はmECブイヨンを用い, その培養液を検体として, PCRでベロ毒素の検出を試みるとともに, DHLおよびSS寒天培地にて分離培養を実施しています。最も多く分離される血清型はO157ですが, それよりももっと多く確認されるのはO群混合血清 (デンカ生研) のいずれにも凝集しないタイプの血清型なのです。

 市販されている免疫血清では確認できない血清型が多く存在するのは当然だと思いますが, なぜ高率に分離されるこのような菌を原因とした食中毒事件が多発しないのかとても不思議です。

 このようなことについて情報などがありましたらお教えいただけますようお願いいたします。

【回答】
 ベロ毒素産生性大腸菌がヒトに感染するには“定着”が不可欠です。“定着”には付着因子のひとつであるeaeA遺伝子が必要といわれています。小林らの検討では, EHECでのeaeA遺伝子の保有状況は, O157, O26, O111はヒト由来, ヒト以外の由来にかかわらず, すべての菌株で保有していますが, 市販抗血清にない型, つまりO119, O103, O139などでは約50%, ヒト以外の由来株では約40%の低い保有率であると報告しています。したがって, 牛から分離された市販の抗血清に凝集しないベロ毒素産生株では, eaeA遺伝子を保有しない菌株が多いので, ヒトの腸管に定着できないため, これらの菌による食中毒が多発しないのではないかと推測されています。

〔参考文献〕

小林一寛: 下痢原性大腸菌における付着因子保有状況とそれに基づく大腸菌検査法
の一考察. 感染症誌 76: 911〜919, 2002.

(愛媛大学・宮本 仁志)

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