■ A群溶連菌の溶血能について | |
【質問】
臨床検査技師の●●と申します。Streptococcus pyogenes (A群溶血連鎖球菌) について教えてください。Streptococcus pyogenesは羊血液寒天培地上でβ溶血 (完全溶血) を示すと言われていますが, 当院で初めてβ溶血を示さない非溶血性のStreptococcus pyogenesが分離されました。外国ではしばしば報告があるという論文を読みましたが, 日本でも (他の施設から) 分離されているのでしょうか??? 非溶血性のStreptococcus pyogenesが分離されるのは珍しいことなのか, また通常のβ溶血を示すStreptococcus pyogenesと病原性が異なるのか教えてくだい。また今回の分離菌についてはまだ調べていませんが, 論文では非溶血性のStreptococcus pyogenesにはストレプトリジンSの発現がなく, ストレプトリジンOの低レベルな産生が見られたとありました。もし菌の性状についても情報がありましたら教えてください。宜しくお願いします。 【回答】
溶血連鎖球菌の溶血素としてstreptolysin-Oとstreptolysin-Sが知られていますが, streptolysin-Oは酸素により失活(oxygen lableの“O”)するため, 検出には血液寒天に穿刺して, 酸素分圧の低い深部まで菌を接種するか, 嫌気培養する必要があります。これに対してstreptolysin-Sは酸素に安定であるため, 好気培養した血液寒天培地の集落周囲に認められる明瞭なβ溶血環はこの溶血素によるものと言われています。細菌学の教科書の中には, S. pyogenesの中にはstreptolysin-Sを作らない菌株が存在することもあるため, 寒天平板の一部に穿刺して培養することが薦められているものもあります。streptolysin-Sは菌体に付着しており, 血清で処理すると遊離する(serum extractableの“S”)とされています。海外の文献では, ご質問の中にもありますように, streptolysin-Sが欠乏する菌株には溶血性が認められなかったという報告が複数認められます。中にはβ溶血株と非溶血株が混在していたという文献もあります。 “通常のβ溶血を示すS.pyogenesと病原性が異なるのか???”
質問者も良く調べて質問されていると思いますので, 要望に沿う回答ではなかったかも知れませんが, 今回の分離菌も可能であれば詳しく性状を調べられることをお勧めします。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭) |