06/04/19
06/04/21
Bacillus subtilisのグラム染色
【質問】
 はじめまして。大学院において細菌培養を行なっている修士1年生です。今回, 私の所属する研究室で, 学生の実習のために芽胞形成菌のグラム染色像を見せる目的でBacillus subtilisのスライドを作成することになりました。そのため?80℃で約5ヶ月間凍結保存していたもの (バンバンカーで凍結保存) を復活させ, ハートインフュージョン培地にて24時間ごとに継代培養を行い, 2代目においてグラム染色を行いました。Bacillus subtilisはグラム陽性桿菌と勉強していました (以前に鏡検した際は, グラム陽性桿菌の像で見ることが出来ました) が, 今回実際に鏡検したところ, “グラム陰性”と見られるような染まり方 (赤〜ピンク色) が多く, 火炎固定による菌の変性が原因かとも考え, メタノール固定なども試しましたが, いずれも同様な結果になりました。陰性桿菌の混入を起こしているのかと思い, 3%KOHaqで「劉の反応」を使用して実験を行いましたが, 「陽性」であると考えられる結果がでました (このBacillus subtilisと陽性対照としてS. aureus, 陰性対照としてE. coliも同時に劉の反応実験を行ないました)。そこで質問なのですが: 

Q1: 培養条件で染色のされ方が異なるのであれば, グラム染色においてなるべく陽性桿菌像を得るために推奨される培養条件とは???

Q2: なぜ, 今回このような染まり方になってしまったか???

Q3: 培養条件ではなく, テクニカルエラーだとすれば, どういった原因が考えられるか???

Q4: 通常の基礎培地 (土浸出液培地は持っていませんので・・・) などで芽胞形成をさせやすくするためには, どのような培養条件で行なえばよいか???

〜材料と方法〜
Bacillus subtilis: 同定された株
グラム染色液: ニッスイフェイバー試薬を使用
グラム染色手順: 火炎固定 (またはメタノール固定1分間) , 次にフェイバー試薬A 1分間。脱色液15秒間し, フェイバー試薬Bフクシンを1分間。最後に流水洗浄

 実習で, 学生にも実際にグラム染色をさせることや, 学生から寄せられる質問に対しての回答のため, ご教授お願いいたします。

【回答】
 Bacillus subtilisは好気性有芽胞運動性グラム陽性桿菌で, 自然界に広く分布し, 一般には非病原菌として扱われています。50℃で発育しますが, 無酸素状態では発育せず, ONPG, VP, CIT, NR, ST, DNAseが陽性, グルコース, セロビオース, マンノース, ラフィノース, サリシンを分解して酸を産生します。ただし, ウレアーゼ, インドール, オキシダーゼ, アルギニンは陰性であり, これらの生物学的性状から近縁菌種 (Bacillus licheniformisBacillus amyloliquefaciensなど) と鑑別されます。

 さて, ご質問の内容で不明な点がいくつかあります。まず第1点ですが, 保存から取り出した後, 再同定検査をしたのかどうか (菌株が入れ替わっている可能性もあります)。第2点は, 『“グラム陰性”と見られるような染まり方 (赤〜ピンク色)』に見えたとありますが, 芽胞は確認されたのでしょうか??? (芽胞が認められれば, 染色性は別としてグラム陽性菌です)。第3点は,「劉の反応」が陽性とありますが, 劉の反応が陽性の場合はグラム陰性菌の筈です。文章での表現が誤りで, ご本人は「劉の反応によって, “グラム陽性”であることを確かめた」と仰りたかったのではないかと推察します。

 これらを踏まえ, 保存菌株は間違いなくBacillus subtilisであるとして, ご質問に簡単に答えてみたいと思います。まず, メタノール固定やフェイバー試薬が悪いとは思えません。疑問があれば他法 (ハッカー変法やB&M法) で確かめてください。また, 古い培養菌や長時間培養ではグラム陽性菌がグラム陰性に染まりやすくなります。故に若い培養菌 (純培養菌を塗布した寒天培地の塗り始めの部分が少し盛り上がった状態で, 独立集落を作る前: 菌株によって異なりますが, 数時間程度) を染色してみてください。次に, 芽胞を顕微鏡で確かめるための芽胞形成方法ですが, 土浸出液寒天 (Gordon and Smith: 1963) を用いる方法があります。これは, ペプトン 5 gram, 牛肉エキス 3 gram, 寒天 20 gramを土浸出液1,000 ml (庭土1,000 gramをメッシュで篩いにかけて, 水 2,400 mlでよく混和し, 121℃, 1時間滅菌した後に濾過)を加え, 加熱してpH 7.0に修正し, 115℃, 20分間滅菌して平板に固めて使用します。この培地を持っていないとのことですが, 市販品はないと思いますので, 自製してみたらいかがでしょうか??? いずれにしても, 菌細胞内GTP濃度を低下させることで芽胞形成誘導が可能であり, 飢餓状態を作って培養する方法を講じることになります。手軽な方法として, ジャガイモなど, “でんぷん”を含む培地で継代培養して芽胞が復活することもありますし, 微量の“マンガン”を含ませた培地で回復するとも言われています。いろいろな条件を考案して, 学生と一緒に試してみるのも良いのではないでしょうか。

(大手前病院・山中 喜代治)


【質問者からのお礼】
 “保存から取り出した後, 再同定検査をしたのかどうか”という点は, 再同定していなかったです。このBacillusは他の大学で同定された株を譲り受けたものであり, うちの研究室にはこのBacillusS. aureus (これも他の大学で同定された株を譲り受けたもの) の2つしかないので再同定検査を怠りました。

 また「劉の反応」の記載については, 仰る通りです。分かり辛い文章になってしまい申し訳ございません。

 非常に分かりやすく, ご丁寧な回答ありがとうございました。私自身, 学部生のころから動物由来 (犬・猫) のウイルスを専門としてきまして, あまり細菌の方はやってこなかったので, 今回を良い機会として学生と一緒に勉強していきたいと思います!


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