05/06/30
05/07/05
Bacteroides fragilisの薬剤感受性結果について
【質問】
 臨床検体 (腹部膿瘍) から発育したB. fragilisについて悩んでいます。

 ニトロセフィン法のβ-ラクタマーゼ試験 (セフィナーゼ) で陽性, MIC値 (栄研化学のMICプレート) ではPCG = >8.0μg/ml, ABPC = >8.0, AMPC/CVA = >16.0, CZX = 8.0, CMZ = 2.0, FMOX = 2.0, IPM = 2.0となりました。この株は「ペニシリナーゼのみ産生しているので, IPMやセフェムなどに対しては感受性を示す」と解釈してもよろしいのでしょうか??? NCCLSの判定カテゴリーもありませんし・・・とても困っております。ご教示下さい。どうぞよろしくお願いします。

【回答】
 あなたの解釈は正確とはいえません。この株は, cep Aに暗合されるcefuroximaseを産生しており, この酵素の基質とならないcephamycinsとcarbapenemに高感受性を示していると解釈して下さい。

 B. fragilisの産生する基本的なβ-ラクタマーゼは, 酵素の基質特異性による分類を使って説明すると, cefuroximase (oxiiminocephalosporinase) 型です。酵素産生量の多い株 (20%) と少ない株があります。ごく一部に, imipenemase (metallo-β-lactamase) を産生する株があることがわかっています。さて, B. fragilisのcefuroximase型の酵素は, penicilinsとcephemsの両方を加水分解することができること (penicillinaseとcephalosporinaseの特徴を備えていること), そしてβ-lactamase阻害薬 (clavulanic acid, sulbactam) に感受性であることが大きな特徴です。この酵素は、penicillinsを格好の基質とし, ampicillinのMICは16〜64 μg/mlです。酵素産生量の高い株では128 μg/ml以上にもなります。またcephamycin以外のcephemをも格好の基質とし, 第三世代cephemでも加水分解することができますが, 薬剤の種類によって分解の程度に差があります。第三世代cephems中でもっとも加水分解を受けにくい薬剤はceftizoximeで, MICは 32 μg/ml以下です。Cefmetazole, flomoxefなどのいわゆるcephamycinsは, ほとんどの場合この酵素の基質となりません。またcarbapenemもこの酵素の基質とはなりません。従って, B. fragilisはこれらの薬剤に高感受性です。

 質問された株は, 栄研化学のMICプレートでPCG = >8.0μg/ml (R), ABPC = >8.0 (R), AMPC/CVA = >16.0 (R), CZX = 8.0 (S), CMZ = 2.0 (S), FMOX = 2.0 (S), IPM = 2.0 (S)ということですね。つまり, cephamycinsとcarbapenemに感受性で, 第三世代のceftizoximeに感受性です。この株は, metallo-β-lactamaseを産生せず, cefuroximaseを産生するB. fragilisの感受性パターンに一致していることがわかるでしょう。Clavulanic acidに感受性であることは、このプレートで採用されている濃度域では確かめることができなかったのです。

(岐阜大学・渡邉 邦友)
 
【質問者からのお礼】
 とてもわかりやすい解説, ありがとうございました。細菌検査室の職員一堂, 頭の“モヤ”が晴れました。まさに「困ったときのJARMAM HP」ですね。これからもマメにトピックスをチェックして参考にさせていただきます。どうもありがとうございました。

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