06/09/03
06/09/07
■ 梅毒反応陽性者への感染対策
【質問】
 産婦人科病院の感染対策を担当しています。

 梅毒反応でガラス板「陰性」かつTPHA「陽性」の梅毒治癒後と判定される患者や, ガラス板「陽性」かつTPHA「陽性」だが低値で今は治療を要さないと判断される患者でも, 

(1) 院内感染対策としては“梅毒患者”として対応する必要があるのでしょうか???
 標準予防策でよいといわれても, 実際には緊急手術や分娩では血液や体液が飛散します。患者が使用した術衣やタオルなども血液汚染します。感染のリスクが低いから“ほぼ大丈夫”ではなく, 他の患者や新生児またスタッフに絶対感染させない予防策が要求されていると考えています。

(2) 患者を治療する適応と感染対策をする適応は同じレベルでしょうか??? 

(3) また, 針刺し事故対策としても, 感染性のない治療後梅毒患者の血液で針刺し事故を起こした場合には, 特に対策は不要でしょうか??? 未治療梅毒患者と治療中患者のみが対象でしょうか。

 様々な書籍をみても, この点がはっきり記載されていません。専門家からご教示いただければ幸いです。

【回答】
(1) TPHAやガラス板法の陽性で,梅毒治癒と判定されている患者でも,梅毒患者として院内感染対策を行う必要があるか.
 感染性がありませんので, 感染対策を行う必要はありません。梅毒は梅毒トレポネーマの感染により発症し, 感染後に梅毒トレポネーマに対する抗体が産生されます。臨床検査ではこの梅毒抗体の有無をTPHAやガラス板法などで調べています。梅毒治癒とされる方では, 梅毒抗体は陽性ですが, 感染性のあるトレポネーマは認められません。これまでも, 同様の疑問を持つ方々がおられました。わが国では感染性のある梅毒患者は激減し, 顕性梅毒をみることはほとんどありません。現在, 梅毒反応が陽性の方のほとんどは梅毒抗体陽性者ですが, 梅毒患者ではありません.

(2) 患者を治療する適応と感染対策をする適応は同じレベルか.
 梅毒の第1期における性器の粘膜や皮膚に形成される硬性下疳はきわめて危険であり, 患部から分泌される分泌液には数多くの梅毒トレポネーマが検出されます。当然, 治療を必要とする患者では, 適切な治療と同じレベルでの感染対策が必要です。

(3) 感染性のない治療後梅毒患者の血液の針刺し事故を起こした場合には。
 感染性のない陳旧性梅毒では, 事故後の梅毒を心配する必要はありません。上記したように抗体は陽性ですが, 梅毒の原因となる病原体はいません。対策として局所の消毒を行う程度でよいでしょう。この場合, 梅毒以外のC型肝炎やB型肝炎の有無をチェックしておく必要があります。梅毒は性行為で感染する疾患であり, 針刺し事故で感染するものではありません。未治療患者や治療中の患者は, 当然, 感染対策の対象になります。

(近畿大学・古田 格)


【質問者からのお礼】
 ご明解な回答をいただきありがとうございました。理論的には, 感染性のない時に, 特別な対応は不要と考えるのですが, なかなかはっきり「不要」と記載されているものが見つけられずにいました。先生の教えによりすっきりいたしました。これからは, 梅毒反応という言葉に反応してしまうスタッフの再教育にエネルギーを要しそうです。

 余談ですが, 先日, 医師になって初めてfreshな梅毒患者に遭遇しました。20歳代のCSW (いわゆる風俗業) で, 3ヶ月前に初期硬結の症状があり, どこか他院で梅毒と診断され2週間内服治療したそうです。当院を受診したのは,「仕事に復帰してよい」の診断書を希望でした。TPHAが×160でしたので, 治療後と判定しましたが, 感染力がないから復職許可と言うには抵抗がありました・・・そんな症例もあり, 血液検査で梅毒反応陽性者よりも, 血液検査をしてない外来患者のなかに感染者が隠れていることを想定して日常診療を行うこと (standard precaution) の方が重要と実感しています。ご教示いただきありがとうございました。


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