■培養法と抗原検出結果の乖離 | |
【質問】
A群β溶連菌迅速抗原検査 (ラピッドテスタストレップA)が「陽性」, 咽頭培養 (血液およびチョコレート培地) で「陰性」と乖離した症例を2例経験しました。2例とも小児で, 発熱, 発疹の性状やイチゴ舌の存在など, 臨床的には明らかに溶連菌感染で, しかも抗菌薬の投与も受けていないとの小児科医のコメントです。乖離の原因としてどのような要因が考えられるでしょうか??? 宜しくご教授願います。 【回答】
まず, ご質問にある臨床症状から,溶連菌感染が強く疑われますので,感染はあったものと仮定して“培養偽陰性”の原因を考えて見ます。担当の先生の話では抗菌薬の投与は受けていなかったとのことですが,やはり抗菌薬の影響がまず考えられます。前医での投薬の可能性も僅かですが考えられると思います。これは一つの事例ですが,溶連菌は家族内感染を起こしやすいため,溶連菌感染で受診した兄弟の薬を飲んでいたという子供さんも経験しました。薬の影響だけでなく,溶連菌は上気道に常在する他の菌種よりも死滅しやすく,発症後, 比較的長い時間が経過した場合には生菌数が減少していることも考えられます。菌の抗原自体は存在しても,生きている菌が少ないために培養では検出できなかったという状態が推測されます。 次に検体採取の部位と保存状態ですが,抗原検査と培養を別のスワブ (綿棒) で採取した場合,採取部位により菌濃度の違いは当然あると思います。同時に2本採取するのではなく,時間をおいて別の担当者が採取する場合にはその差がさらに大きくなると予想されます。また検体採取後, 直ちに培養を開始するのか,保存後に培養するのかでも生菌数は変化します。適切な保存状態であったかどうかも大切な要素だと思います。 また菌株の問題ですが,A群溶連菌であっても, 稀にB群溶連菌のような微弱な溶血を示すものもあります。また極めて稀ではありますが,非溶血の菌株も報告されていますので,他の菌集落と鑑別困難なこともあります。 臨床症状から判断するとあまり考え難いことかも知れませんが, “迅速抗原検査偽陽性”となる要因として, 共通抗原を持つ菌株の問題があります。A群抗原はStreptococcus pyogenes以外に,口腔内に常在している“Streptococcus milleri” groupの一部が保有していることがあります。またNeisseria spp.がA群抗原を保有していたという報告も認められますので,これらの菌量が多い場合にはA群抗原検出キットで「陽性」になることも推測されます。 他にも, 培養法と抗原検査の乖離の要因はあると思いますが,溶連菌感染か否かは,溶連菌の流行状況や臨床症状,家族感染歴,あるいは血中抗体価 (ASO,ASKなど)などの成績も参考にしながら,総合的に判断することが大切だと思います。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭) |