05/06/17
■ 培養温度について
【質問】
 食品メーカー勤務の者です。お世話になります。

 勤務先での製品の一般生菌数試験では, 標準寒天培地で培養温度は37℃を使用しています。私は品質に関わる仕事を行っています。製品品質 (日持ち) 試験では製品に設定された管理温度 (20℃〜30℃) と同じ温度で培養して評価しようと考えています。培地は標準寒天培地と, 糖濃度が高い製品については砂糖を添加した標準寒天培地も併用して, 培養は1週間観察して評価しようと考えています。このような進め方は間違いなのでしょうか??? やはり培養温度は37℃とするべきですか??? 

 また, 常法とされるこの37℃の根拠は, 人や検出の目的が食中毒菌中心で, 動物由来の汚染菌が中心となるためなのでしょうか??? ただ単に最も幅広く菌を検出できる温度なのでしょうか???

【回答】
 微生物は自然界に存在する微細な生物です。現在我々が関与している微生物はその中のごく一部です。さらに, 知られている微生物は人間や動物に関係しているものが多数を占めています。質問者は品質に関わっている仕事をされているということなので, 質問者の勤務している会社が製造している製品に関する微生物, 特に製品を劣化する微生物を調べようとしているのではないかと推測します。まず, 一般的に用いられている (公定法) 培養温度は35℃±1℃です (食品衛生六法, AOAC法, FDAなど)。「食品衛生検査指針」には, 35℃_37℃と記載されています。一番大事なのは, 日本の食品衛生法の規格基準に適合しているか否かを調べるということであり, 標準寒天培地を用いて35℃, 48時間培養した結果です。これとは別に, 各社が規定する品質保証をどうするかということで, 質問者が質問している培養温度や培養時間について種々検討する必要があると思います。この培養条件は, 製品の種類によって変わってきますので注意する必要があります。糖濃度が高い製品では酵母の検査が重要です。

 37℃の根拠は, 中温菌 (至適温度25℃_37℃, 低温菌では12_18℃, 高温菌では55℃_60℃) を対象菌とすれば広く菌を検出できるからです。古くから日本 (腸内細菌の研究が主流を占めていた歴史がある) では37℃が用いられてきました。37℃は人体の平均内部温度です。ちなみに, 鶏肉からキャンピロバクターがよく分離されますが, 培養温度は分離時には42℃を用います。鳥類の体内温度は42℃です。犬や猫は38.5℃です。余分なことを書きましたが, 中温菌を対象とした培養では低温菌や高温菌は分離できません。さらに, 酸素濃度によっても分離されない菌もあります (嫌気性菌, 微好気性菌)。重複しますが, 微生物学は自然が相手であることを忘れないでください。

(日水製薬・小高 秀正)

【質問者からのお礼】
 大変ご親切な回答を頂きありがとうございます。培養によって存在を認識している微生物はごく一部であるとう話を10年くらい前に防菌防黴学会のセミナ−で聞いたのを思い出しました。以前に製品の腐敗原因 (20〜25℃保管による)を調査した結果, 標準寒天培地に好気条件で発生したほとんどの菌が好気培養か, 嫌気と好気の両方に生育可能なカタラ−ゼ陽性のグラム陽性 (KOH溶液による方法) 桿菌・芽胞形成する菌であったことからBacillus菌属が主原因 (104℃くらいまで加熱加工され, 速やかに90℃以上の条件で機械的に自動包装するので酵母は抑制できていると思われます) と考えておりました。食品衛生法と主原因の菌を考えると35℃の培養で検討する方が良いと考えなおしました。ただ, いつどんな菌が製品や製造環境にて適応して入ってくるかわからないので, 日常の製品検査ででる菌にも目をくばれたらと思います。


[戻る]