05/08/08
■β-ラクタマーゼ産生菌とPIPC
【質問】
 いつも拝見させていただき大変感謝しております。大学病院の検査技師です。

ヘモフィルスや嫌気性菌のβ-ラクタマーゼ産生菌やメタロβラクタマーゼ緑膿菌に“PIPC”は有効なのでしょうか??? PCGやABPCなどは, 薬剤感受性試験で感受性 (S) であってもβ-ラクタマーゼ産生菌の場合は「耐性」として報告しています。PIPCはβ-ラクタマーゼに安定ということで感受性 (S) のままでよいのでしょうか??? ご教授お願いします。

【回答】
 薬剤感受性のカテゴリー記載は,同じ薬剤であっても菌種または耐性機序毎に異なり,悩ましい問題です。CLSI (旧NCCLS) のドキュメントにはβ-ラクタマーゼテストは,”ブドウ球菌,Moraxella catarrhalis,腸球菌,Haemophilus spp. および淋菌が対象であり,腸内細菌,Pseudomonas spp. およびその他の好気性グラム陰性桿菌には適応しない” と記載されています。ただしESBLsについては,確認試験でESBLs産生菌と判定されれば,”すべてのペニシリン系薬,セファロスポリン系薬およびアズトレオナムを耐性と報告すべきである” とされていますが, メタロβ-ラクタマーゼ産生菌についての判定基準は示されていないのが現状だと思います。ご質問の菌種毎にわかる範囲内で答えさせていただきます。

(1) ヘモフィルス
 ヘモフィルス属のペニシリナーゼ産生の有無は比較的良好に薬剤感受性試験の結果に反映されることから,ペニシリナーゼ陽性であれば, PIPCであっても, 多くの場合MIC (最小発育阻止濃度) 値は高くなります。ただし, ヘモフィルス属については, CLSIでのS,I,R の定性判定基準が示されていないため,どのMIC値からが“R”ということも言えません。しかし, ペニシリナーゼを産生するヘモフィルスの場合には明らかに非産生株よりもMIC値が高くなりますので,β-ラクタマーゼ陽性ならPIPC耐性と考えるのが妥当だと思います。やはりPIPC単独ではなく,β-ラクタマーゼ阻害剤との合剤やその他の系統の薬剤が勧められます。

(2) 嫌気性菌
 主なβ-ラクタマーゼ産生嫌気性菌としてBacteroides属,Prevotella属,Porphylomonas属などがあげられますが,日常的にこれらの菌群のβ-ラクタマーゼを検査されているのでしょうか??? 文献的には, これらの菌群は本質的にβ-ラクタマーゼを産生しているため,β-ラクタマーゼ阻害剤との合剤が勧められています。薬剤感受性試験の判定が“S”であった場合に検査室で“R”に変換すべきかという問題がありますが,β-ラクタマーゼを試験していない施設では, CLSIのカテゴリーに従って, 変換せずにそのまま報告しているのではないかと思います。またMIC実測値のみを報告して, カテゴリー判定を記載しないという選択肢もあると思います。

(3) メタロβ-ラクタマーゼ産生緑膿菌
 メタロβ-ラクタマーゼ産生菌のカテゴリー変換についての基準は示されていませんので,薬剤感受性試験の結果に従った報告を行い,敢てカテゴリーを変換する必要はないのではと思います。またPIPCはメタロβ-ラクタマーゼ産生菌に有効な薬剤の1つとされていますので,薬剤感受性試験で“S”なら,そのまま報告して問題はないと思います。メタロβ-ラクタマーゼ産生菌の場合,PIPC,PIPC/TAZ,AZTのいずれか, またはβ-ラクタム剤以外の薬剤の選択が勧められています。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


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